厚生労働省は5日、工業技術などの分野で卓越した技能を持つ技術者150人を2021年度の「現代の名工」に選んだと発表した。秋田県からは、曲げわっぱ職人の柴田慶信さん(81)=大館市清水=が選ばれた。
大館市の伝統的工芸品「曲げわっぱ」作りの世界に入って半世紀余。大館市御成町に秋田本店を構える柴田慶信商店を一代で築いた。「独学で始めた曲げ物の道。多くの人の支えがあってやってこられた」と感謝の言葉を口にする。
旧比内町出身。営林署で植林や林道整備などの仕事に携わっていたが、「自分の足跡を残したい」との思いに駆られた。木に親しんできた経験を生かそうと、24歳で新たな道に足を踏み入れた。
師匠には付かず、ゼロからのスタート。他社の製品を買っては分解して研究し、見よう見まねで作り続けた。軌道に乗るまでは、大工仕事を手伝ったり、山菜を売ったりして収入を得ながら製作に打ち込んだ。
曲げわっぱ一本で生計を賄えるようになったのは30代後半頃。業界で主流となっているウレタン塗装は行わず、白木のままの杉材を使って弁当箱やおひつなどを製作したことが転機となった。米どころ秋田のご飯をおいしく食べてほしい―との一心で作った製品は消費者に受け入れられ、評判となった。
「元々は暮らしの道具の一つで、塗装はなかった。白木製品は調湿効果でご飯がおいしくなる」。現在も、ご飯をよそう食器類は白木を使った製品が中心だ。
大学の研究者らのアドバイスは積極的に受け入れた。ご飯を一粒残らずよそうことができるように、ろくろを使って、おひつなどの内側を滑らかに削って丸みを付ける「隅丸加工」を開発した業界の先駆者でもある。
経営は三男の昌正(よしまさ)さん(48)に任せ、一線を退いて会長職に就いたが、木の香漂う作業場で今も時折、黙々と手を動かす。「長い歴史があるからこそ、その道を究めようと続けてこられた。暮らしは楽ではなかったが好きなことをやり続けることができた。秋田杉の産地に恥じないものを作り続けたい」。意欲は今も衰えない。