金沢に来て8カ月、様々な伝統工芸に触れてきたが、牛首紬(うしくびつむぎ)は初。「牛首」ってなんだろう、と思いながら、石川県立伝統産業工芸館で開かれている企画展「牛首紬 二頭の蚕が紡ぐ山の文化」を訪れた。
会場には、牛首紬を作る道具や作品など約80点が並ぶ。同館の企画・広報担当の弓場麻衣さんに案内していただいた。
1159年、平治の乱に敗れて牛首村(現・白山市白峰)に逃れた源氏の落人の妻が、得意だった機織りの技術を村人に教えたのが始まり。いまは2カ所の工房で作られているという。
「玉繭(たままゆ)」を横糸に使って織るのが特徴。玉繭は、蚕のオスとメスの2匹で作り上げるもので、できる確率は5%ほどという。展示室の入り口に、玉繭と通常の「普通繭」が籠に盛られていた。玉繭は一回り太い。織られた布を見ると、所々に糸の凹凸がある。2本の糸が絡んでできる「節」で、牛首紬ならではの味になる。
白生地もあるが、糸を染色する場合は「藍染」や、県花のクロユリを使った牛首紬独特の「くろゆり染」を用いる。植物染色では難しい緑色をはじめ、一つの花からピンクや黄色など複数の色を出す、「幻の染め方」だ。近年は化学染料を使うこともあるという。
作業風景を映像で見ることもできる。左右の足で交互にペダルを踏んで木製の織り機を動かすと、「カシャガタン」という音とともに糸が織られていく。よく見ると、映像を投影する白い布も牛首紬だった。
牛首紬商品の販売もある。ストール(税込み3万800円)やキャスケット(同1万7600円)が人気という。「恋まゆ」という恋のお守りも。牛首紬のお守り袋の中に玉繭が入っているらしい。入り口には「玉繭は神秘のマリアージュ」とあった。なんだか効果がありそうだ。