石川県の伝統工芸、加賀友禅の図案を電子化する取り組みを、北陸先端科学技術大学院大の鳥居拓馬助教(33)が進めている。加賀友禅は草木や風景などを手描きした品格のある伝統的な文様が特徴。整理した図案のデータは公開し、友禅作家の熟練した技術を後世に継承したい考えだ。
電子化するのは金沢市の加賀友禅作家、寺西一紘さん(78)が制作した黒留め袖約200点の図案。1点につき縦約119センチ、横約84センチのA0判の紙が2枚あり、計約400枚を大型スキャナーで読み込む。検索しやすいようタイトルや作成日などで分類する。
加賀友禅は藍、古代紫など5色が基調とされ、草花の色の濃淡や虫食いの様子まで描く。図案作成は線の描き方や配置で作家ごとの違いが出て、熟練度が分かる重要な工程。一方、着物は一点物ゆえに図案を使い回すことはなく、手元に残す職人は少ないとされる。
「落ち着いた品格ある加賀友禅が市場で少なくなっている」。写実的な伝統文様を描ける若手作家が減り、業界の衰退に危機感を抱いた寺西さんの思いを受け、鳥居助教が2018年秋から電子化を始めた。
加賀染振興協会(金沢市)によると、18年度の加賀友禅の生産額は推計約25億円で、20年前に比べ約90億円減少。後継者の育成が課題となっており、寺西さんは「職人の仕事を次の世代に保存しておきたい」と語る。
データの具体的な公開方法は今後検討するが、若手作家の養成に活用するほか、伝統文化の教育にも生かす。人工知能(AI)を使い、図案の構図を分析させて自動的に作図できないかといった研究も見据える。
現在は図案のみを電子化しているが、鳥居助教は着物の写真を併せて提供し、全体の配色も分かるようにしたいと考えている。「データの使い道は多い。加賀友禅の価値を見直すきっかけになれば」と話している。