働き方改革に“逆行”する家具職人“丁稚制度”の是非 携帯や恋愛は禁止で“丸刈り”も弟子は希望でいっぱい「自分には目標と夢がある」

神奈川県横浜市にとある小さな優良企業がある。1971年に設立された有限会社秋山木工だ。これまで手塩にかけてつくり出した商品の数々は、国会議事堂や一流ホテルをはじめ、様々なところで採用され、愛されている。秋山木工を営むのは、家具づくり一筋60年の秋山利輝社長。働き方改革の過渡期にある日本国内において今、秋山社長の職人育成方針に注目が集まっている。

「一応一流と呼ばれる職人になれたのは、ただ頑張ったからではなく、世間がそうしてくれたから。自分がやってもらったことをみんなにお返ししなければいけない」

そう話す秋山氏のもとでは、30名ほどの弟子たちが日々腕を磨いているが、その育成には丁稚制度が採用されている。“丁稚”とは、住み込みで一流の職人を養成しようという考えによって江戸時代にできた言葉で、この制度にこだわる秋山氏は「感動してもらってナンボの商売。どんなお客さんに対しても喜んでもらえる腕のある職人になるためには、技術もさることながら人間性も大切。『5年間で一流をつくる』ためには、丁稚制度以外に勝るものはない」と断言。秋山木工では、1年目を「丁稚見習い」とし、2年目~5年目を「丁稚」、6年目~8年目を「職人」と位置付けている。

10日間の新弟子テスト期間を経て、晴れてテストに合格した弟子は自主的に丸刈りになる。しかし、ここで丸刈りにならなかった人は「そのまま田舎に帰っていただく」と秋山氏。高校野球ですら丸刈りの是非が語られる昨今だが、今年新弟子として入ったばかりの丁稚見習い・米林雄斗さんが「気づいたことからどんどん進んでやっていく(秋山氏の)姿をみて、そういう職人になりたいと思っている。自分には向かっていく目標というか、夢がある。そこに向かって行っているという感覚があるので辛いことでも向き合って頑張れる」と意気込みを話せば、同じく山田渓太さんは「(秋山氏は)とても素晴らしい職人さん。(今はまだ)自分たちは言われたことを言われた通りすることが一番だと考えている。これまで男手一つで育ててくれた父や自分を生んでくれた母に、これから成長していった姿を見せて恩返しをしたい」と思いを語った。

秋山氏の丁稚制度にはさらに厳しい決まりもある。まず、携帯電話は使用禁止だ。所持は許されているが、仕事以外で使用することを禁止されている。仮に使用が判明すれば、即座に解雇される。恋愛の発覚も解雇の対象となる。「まず4年間はそれらを一切忘れ、一直線に一流プレイヤーを目指す。技だけではなく、人間的にも一流に」という秋山氏の考えが反映されており、その他にも、朝5時起床で2kmのランニングや8年で強制退職などの決まりもある。

政府主導の“働き方改革”とは逆行する丁稚制度を貫く秋山氏は、働き方改革について「ビンボー人をいっぱい作ろうかっちゅう話。僕はあまり賛成じゃない」と一刀両断すると「時給は上げるからもっと(勤務時間を)短くしようよ。これがセットになってればいいんだけど、どうもセットになっていない」と“名ばかり”の改革に対しては懐疑的な持論を展開した。

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