提灯生産日本一だった名古屋 技伝承に体験型の店誕生

名古屋市千種区の商業施設「星が丘テラス」で6月、「日本の紙モノ体験会」があった。名古屋市瑞穂区の提灯(ちょうちん)店「伏谷商店」は提灯などを作るプログラムを設けた。伝統工芸を伝え、ものづくりに触れてもらう狙いだった。

提灯作りでは、木型に提灯の「骨」となる竹ひごを巻くかわり、初心者向けにワイヤをぐるぐる巻く。円筒状になったら、はけでワイヤにのりを塗り、その上に和紙をはる。よく乾かして提灯を木型からはずし、たためるよう和紙に折り目をつければ完成だ。

初心者向けとはいえ、作業工程は本格的。愛知県東浦町からきた成田美穂子さん(47)は「繊細な日本のものを作りたくて参加したけど、思ったより力が必要。提灯作りを本格的に学んでみたい」。

記者も挑戦した。ワイヤを木型に巻くと、気づけば腕に力が入って震えていた。提灯のしわは味わい深く、何より和紙を通した淡い豆電球の光に心が和む。

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かつては日本一

かつて愛知県は、提灯の生産で日本一を誇り、全国から注文が入った。素早くたくさん作るために、独自の工夫をこらした木型も生み出され、職人は最大約3千人いた。

しかし、「バブル崩壊以降、職人と消費者をつなぐ業者が減り、価値が伝わらなくなった」と伏谷商店社長の伏谷健一さん(56)。中国などから安価な提灯が急増。日本製は追いやられ、愛知県内の職人は約100人に減った。

伏谷さんも大卒後、東京でいったんは就職した。職人を志して1989年に故郷に戻ると、母は「なんで戻ってきた。もうからないのに」と叱った。

一方、父で初代の幸七さん(83)は「やるからには提灯をはれるようになれ」。修業に励み、何百種類もある提灯木型に毎日触れた。材料が共通する扇子屋への手伝いも。「自分自身、毎日『型』にはめられながら過ごした」

そんな中、顧客らと話すうち、現代の家にあう提灯の必要性を感じてきた。伝統にこだわるだけでなく、食卓に置ける小さな提灯やツリー型の提灯……。新しい木型の設計も含めて新たに考案。気づけば売り上げもじわりと伸びていった。「同じ物をいくつも作れるのが『職人』で、新たな工夫をとり入れて進化しながらものづくりを続けていくのが『伝統産業』だと感じている」

本物の「わざ」を

昨年12月、名古屋駅に近い名古屋市西区の円頓寺商店街に「わざもん茶屋」を開いた。

1階には名古屋友禅や名古屋扇子など伝統産業の品物が並び、2階には畳が敷かれた座敷がある。「誰がどう作ったと言える『良いもの』に触れられる店が必要だ」との思いで開業。お茶や提灯作りを体験できる。

座敷では今秋、子ども向けや、本格的な弟子入りを視野に入れた教室を設ける。職人の門戸を広げる挑戦だ。「次の世代につないで初めて『伝統工芸士』と名乗れると思う。インターネットで調べるだけでは伝わらない、本物のわざを伝えていきたい」

〈伏谷商店〉
名古屋市瑞穂区に1962年創業。初代の伏谷幸七さん(83)が50年、中学卒業後に名古屋市内の提灯(ちょうちん)店で修業を始め、のれん分けで独立。現在は職人4人で年約7万個の提灯を製造。名古屋市熱田区の熱田神宮など、全国の寺社の奉納提灯を作っている。

制作体験の問い合わせは電話(052-581-3233)へ。

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