新時代も「よりよい聴こえ」に挑む

補聴器の調整を行う大槻さん

 補聴器の性能は日進月歩だ。近年はAI(人工知能)が搭載され、機械が聴こえ方をみずから調整してくれるようになっている。かつてのように「ピーピー」とハウリングすることも、ほどんとなくなってきた。「これから先も、技術の進展に伴い補聴器の使いやすさも格段に上がる。一方で大切なのは、利用者側もしっかりと補聴器のことを学んでいくこと」と話すのは、戸塚区下倉田町で補聴器店を営む、大槻公孝さん(72)。新しい時代の補聴器との付き合い方について聞いた。

「正しい利用方法を」

 大槻さんは10代半ばに難聴を患った。企業のエンジニアだった頃もたびたび聴こえに悩まされた。上司や同僚、取引先との会話に困り、退職せざるを得なくなった経験がある。長いあいだ、自分に合う補聴器に出会えずに苦しんだ。だからこそ、近年の補聴器の高性能化は喜ばしいことだという。「難聴に悩む人の環境は劇的に良くなっている。難聴の苦しみがわかる者としても、ひとりでも多くの方にそのすばらしさを届けたい」と語る。

 一方で大槻さんは、多くの利用者がその機能の進化を十分に享受できていないことを指摘する。理由のひとつが、「補聴器の正しい使用方法が多くの人に伝わっていないこと」だ。

繊細な機器

 補聴器は、きわめて繊細なバランスで音を調整している。耳穴に隙間が生まれないよう正しく装着しないと、しっかりと聴こえるようにはならない。「縦笛などの管楽器を想像してください。しっかりとふさぐべき穴をふさいで吹かないと、正しい音は出ません。補聴器も音を扱うという点で同じです」という。

 また縦笛にクモが一匹住み着くとうまく音が出なくなるように、補聴器も、音を出す管に耳垢がひと粒ついただけでバランスが崩れ、聴こえ方に影響する。日々の清掃やメンテナンスは不可欠だ。

 だからこそ、正しい装着方法やメンテナンス方法をアドバイスしてくれる補聴器職人の存在が、必要なのだという。「補聴器選びは、良い職人選び、良いお店選びから始まっている」と話す。

充実した人生のため

 加齢難聴は65歳以上で3割、75歳以上になると半数。総数では1500万人を超えていると推定される。今後この数は、さらに増えていくことが予想される。「難聴によって会話に困り、家族や友人との人間関係も疎遠になる方も多い。目が悪ければメガネをかけることと同じように、耳が悪いと感じた場合には補聴器を早めにつけ、より充実した人生を送ってほしい」と呼び掛ける。

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