なぜ「designshop」は伝統工芸品を売り続けることができるのか?

ライフスタイルの多様化によって、消費者は新しくて機能的な製品ばかりでなく、伝統工芸品やデザイン性の高い製品にも注目しています。そんな伝統工芸品やデザイン製品を含め、シンプルで長く使えるアイテムを多数取り扱っている「designshop」のオーナー・森博さんが、20年に渡って得た店舗運営の知見や商品開発について語ってくれました。

日本の工芸を語るとき、キープレーヤーとして必ず名前があがるのが「中川政七商店」です。中川政七商店は1716年創業を誇る奈良の老舗企業。日本の工芸をベースにした生活雑貨を企画製造し、全国に50を超える直営店で小売業を展開するほか、地域活性事業や各地の工芸品メーカーに向けたコンサルティング事業も行っています。

そのコンサルティングの一環となる販路開拓支援のために開催しているのが合同展示会 「大日本市」(2019年9月4日〜9月6日開催)です。今回で4回目となるそのテーマは”アタラシイものづくりと出会う3日間”。全国各地から集った49ブランドに加え、国内最大級のクラウドファンディングサービス「Makuake」とのコラボレーションにより、スタートアップの工芸メーカーも出展。ものづくり・店づくりを知るためのトークセッションや特別展示も数多く開催されました。

今回の記事では9月5日に開催されたトークセッション「伝統工芸とバイイングによる最適なお店作り」(講師:森博さん/designshop Inc. オーナー)より、店舗のブランディングと商品開発のヒントについてレポートします。

designshop Inc.オーナー森博さん。designshopのコンセプトは「シンプルライフ・クオリティライフ」。決して派手ではないけれど長く使える商品、そして流行に左右されない優れた商品を扱うというスタイルを20年間、守り続けてきた

目次

店のコンセプトは曖昧であってはならない

 ライフスタイルの多様化によって、消費者は新しくて機能的な製品ばかりでなく、伝統工芸品やデザイン性の高い製品にも注目しています。そんな伝統工芸品やデザイン製品を含め、シンプルで長く使えるアイテムを多数取り扱っている「designshop」のオーナー・森博さんが、20年に渡って得た店舗運営の知見や商品開発について語ってくれました。

「designshopのコンセプトは『シンプルライフ・クオリティライフ』です。決して派手ではないけれど長く使える商品、そして流行に左右されない優れた商品を扱うというスタイルで20年間やっています。お店のコンセプトというのは非常に重要なので、コンセプトが曖昧なようであれば改めてしっかりと考えたほうが良いでしょう」

もともとオンラインストアだけで運営していた森さんですが、ストアの成長とともに麻布に実店舗を構えるようになったそうです。森さんは実店舗を持つことについて「オンラインストアを無在庫でやるのは難しいですし、特に手仕事系の商品は実物を見たいとおっしゃるお客様も多くいらっしゃいます」と説明します。

また、デザイナーの友人と共同で店舗運営をしていた森さんは、客として訪れたデザイナーや建築家とのネットワークを構築、客層を広げるとともに彼らと開催した展示会が雑誌に取り上げられるなど徐々に知名度を上げていきました。実店舗は単に商品を売る場としてだけではなく、ネットワーク構築の場としても使うことができると言えそうです。

「2006年にデザイナーの五十嵐威暢さんと知り合ったことが大きな転機になったと考えています。デザイナーや著名な方と知り合いになることができれば、それは大きなブランディングにつながると思います」

実店舗は単に商品を売る場としてだけではなく、ネットワーク構築の場としても使うことができる。「デザイナーや著名な方と知り合いになることができれば、それは大きなブランディングにつながります」(森さん)

なかなか売れない南部鉄器を売るための工夫

岩手県出身の森さんですが、designshopでも南部鉄器をはじめとする伝統工芸品を取り扱っていて好調な売上につながっているそうです。しかし売れない時期もありました。「どうやれば売れるかを考え、南部鉄瓶で沸かしたお湯は非常にまろやかになるという特長にたどり着き、それを全面的に押し出すことにしました。例えば漆塗りの汁椀であれば熱が伝わりにくいという特長があります。それぞれの製品の特長をいかに引き出すかがお店と作り手さんの役割だと思います」と話しました。

また、商品の売り方について森さんは自社のオンラインショップだけでなく、楽天などのオンラインモールを上手に使うことを勧めています。しかし、オンラインモールはポイントバックやクーポンなどが注目され、なかなか利益が出にくいという懸念もあります。

「オンラインモールで利益を上げるには、他の店が扱っていない商品を扱うことだと思います。例えば地方にはあまり知られていない伝統工芸がたくさん眠っているので、これを発掘するのも一つの方法でしょう。ただし、単に伝統工芸を扱うだけではダメで、いかにうまく現代人のライフスタイルに合わせるかが重要です。例えばお湯がまろやかになる南部鉄器とコーヒーブームを組み合わせ、南部鉄器のケトルを売るといった工夫が必要になるでしょう」

オンラインモールで利益を上げるには、他の店が扱っていない商品を扱うようにするべきだ。ただし、単に伝統工芸を扱うだけではダメで、いかにうまく現代人のライフスタイルに合わせるかが重要

地方に眠る伝統工芸品で差をつける

ところで他の店舗と差をつけるためにはどのような商品を取り扱えば良いのでしょうか?森さんは「私も全国の道の駅に立ち寄っては良い商材がないかを探しています。他店では取り扱わないようなものを見つけることが重要です」と話しました。

さらに商品開発に関しては「一番やりやすいのは、既存商品の色を変えたり、ちょっとした変更を加えたりしてオリジナリティを出すことです。例えばもともと黒しかない商品であれば白バージョンを出す。ただし、作り手さんやメーカーさんと仲良くならないとこういった交渉は難しいですから、まずは人間関係にしっかりと取り組むことが必要でしょう」と解説。実際にdesignshopで扱っているわらの鍋敷きも、色や仕上げを変えて展開したところ順調に売れ続けています。

また、全くのオリジナル商品を開発するのであれば、影響力の強いメディアやインフルエンサーと組むことが必要だと森さんは強調します。彼らの影響力を上手に使うことができれば、1500円の菓子が一晩で2000個売れたり、3万円の箒が1000本売れたりすることも夢ではないので、展示会やイベントを活用し、普段からメディアやインフルエンサーと交流しておくことが重要だと言えそうです。

最後に森さんは「私の先祖は近江商人。『売り手よし・買い手よし・世間よし』の三方よしじゃないと商売はうまくいかないと思っています。伝統工芸を守るのはお店の役割だと思います。企画を立てたり他で扱ってない商材を探したりして、独自の店作りを進めていただければ」と締めくくりました。

ライフスタイルの多様化により、商品に対する目が肥えた消費者が増えています。彼らの購買意欲を刺激するような商品を開発したり、見せ方を工夫したりすることが、これからの店舗に求められる姿勢なのかもしれません。

中川政七商店が各地の工芸品メーカーの販路開拓支援のために開催しているのが合同展示会 「大日本市」。今回のテーマは”アタラシイものづくりと出会う3日間”。全国各地から集った49ブランドに加え、国内最大級のクラウドファンディングサービス「Makuake」とのコラボレーションにより、スタートアップの工芸メーカーも出展。ものづくり・店づくりを知るためのトークセッションや特別展示も数多く開催された

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