高知県の伝統産業・土佐打刃物の職人を育てる「学校」が昨年11月、高知県香美市土佐山田町上改田の田園地帯の一角に開校し、県内外から集まった20代の研修生3人が実習で汗を流している。徒弟制度で継承してきた技術の門戸を開き、後継者不足を解消する狙いがある。
約120平方メートルの実習棟にガンガンと金属音が響く。入り口に「鍛冶(かじ)屋創生塾」と表示されている。
「薄うしすぎたら取りにくくなる」「ええ感じの厚みを残してや」
講師の畑山幸彦さん(48)の指導を受けて新人の3人が取り組んでいたのは鍛造の工程だ。鉄の棒を赤くなるまで900度前後の炉で熱し、機械やハンマーでたたいて少しずつ曲線を形作っていく。
刃物には両刃と片刃がある。土佐打刃物で多く見られる両刃は、熱した鉄に工具や機械で凹状に溝を入れ、鋼を挟み込んで作る。たたいて形作った刃物は、熱して水などで冷やす「焼き入れ」を経て、高速回転する砥石(といし)で研いで仕上げる。
創生塾は県土佐刃物連合協同組合(同市)が設立した。運営費や実習棟の建設費は、国や県、市の補助金を充てた。職人らを講師として招き、1年目は鍛造の基本的な技術や刃物の基礎知識などを学ぶ。2年目は1人300本の刃物を作ることが課せられる。インターンシップなども体験でき、2年間で生産工程の一部を請け負える技術を習得し、将来的に独立をめざす。
創生塾事務局によると、土佐打刃物は少量多品種が特徴で農林業の現場や家庭など様々な場所で使われる。「自由鍛造」とも呼ばれ、職人が客の注文に応じて刃物を作ることができる。林業が盛んな県内では古くから山林伐採に必要な打刃物が作られた。鎌倉時代後期から刀鍛冶の存在が伝えられ、国重要文化財「長宗我部地検帳」にも、土佐に鍛冶屋が多数いたことが記されているという。
だが、県内では1998年に168軒が土佐打刃物を作っていたが、現在は70を切るまでに減った。徒弟制度や家族経営が多いなか、後継者不足が問題になっている。講師の畑山さんは「僕らの世代が土佐打刃物を伝えんと終わる。鍛冶屋になりたい若手が来てくれるのはうれしいし、途切れんように伝えんといかん」と話す。
相模原市出身の藤田将尋さん(24)は子ども時代から物作りが好きだった。土木会社で働いていた際、インターネットで創生塾の募集を見て応募を決断した。「課題は多いけど、将来はいろんな刃物を作って注文を断らない職人になりたい」と意気込む。