皇位継承儀式の米決める「斎田点定の儀」 甲羅、職人…確保に奔走

「斎田点定の儀」で使用されるカメの甲羅(宮内庁提供)

 11月の大嘗祭(だいじょうさい)の中心儀式「大嘗宮(だいじょうきゅう)の儀」で、神々に供える米を育てる地方を決める「斎田点定(さいでんてんてい)の儀」が13日、皇居・宮中三殿で行われる。カメの甲羅を用いた古来の占い「亀卜(きぼく)」をするため、宮内庁は約1年半前から、希少なアオウミガメの甲羅の確保に奔走し、甲羅の加工職人の選定にも慎重を期した。亀卜は国内では長崎県対馬に残るだけといわれており、宮内庁は「古代から続く文化を次代につなげたい」としている。

調達、明確な記録なく

 斎田点定の儀は13日午前10時から皇居・宮中三殿の神殿前で行われる。宮中祭祀(さいし)をつかさどる掌典(しょうてん)職らがカメの甲羅を火であぶり、ひび割れの具合から、大嘗祭で供える米を育てる悠紀(ゆき)地方と主基(すき)地方を決定する。

 宮内庁は上皇さまの譲位日が決まった平成29年12月から準備をしてきた。宮内庁によると、前回の代替わりでどこから甲羅を調達したのか明確な記録はなく、加工を担った業者も廃業したことが判明。「代替わりに当たり大きな課題の一つだった」と打ち明ける。

 アオウミガメは絶滅の恐れがあり、国際的な取引を規制するワシントン条約をはじめ、国内法でも保護対象となっている。宮内庁は昨年1月、アオウミガメの保全活動に力を入れる東京都小笠原村に協力を依頼。同村では東京都の許可を受け、アオウミガメの漁が一定量認められており、宮内庁は昨年春に捕獲された8頭分の甲羅を確保した。

正倉院修復に関わった業者に

 加工業者の選定にもハードルがあった。占いに使うには、分厚い甲羅をホームベースのような形に切り出し、1ミリの薄さまで削る高度な技術が必要となる。宮内庁は正倉院(奈良県)の宝物修復に関わった経験のある鼈甲(べっこう)加工業者に作業を依頼したという。

 長崎県などによると、亀卜は現在、皇室の他には同県対馬で地域の1年の吉兆を占うために行われているのみだ。対馬の亀卜は国の無形民俗文化財に指定されている。

 宮内庁関係者は亀卜について「大事な決定をする際、人知を超えた力に委ねてきたのだと思う。皇室だからこそ古代の文化が残っている側面もあり、今回の経験を次代につないでいきたい」と話している。

「斎田点定の儀」で使用されるカメの甲羅を加工した森田孝雄さん=10日午前、東京都荒川区東尾久(三尾郁恵撮影)

 「自分なりのアプローチ手法を考え加工した」。斎田点定の儀に使用される甲羅の加工を行った鼈甲職人、東京都荒川区の森田孝雄さん(68)は取材に対して苦心を振り返った。

 宮内庁から依頼を受けたのは昨年3月ごろ。森田さんは200年近く続く老舗の6代目で、18歳のときから約50年に渡り技術を磨いてきた。平成の御代替わりのときの加工技術の情報は残されておらず、使用した道具も不明だったため、宮内庁から渡された儀式の内容が記された資料を元に仕事に臨んだ。

 普段はタイマイを素材にしているが、今回加工した甲羅はアオウミガメのもの。「材質が異なるため、加工の手法に相当悩んだ」こともあり、加工が全て終わるまでに構想期間を含めて約1年を要した。宮内庁からは「薄さ」を求められたといい、1・5ミリの厚さに仕上げた。「ギリギリの薄さ。甲羅が壊れるのではないかと思い怖かった」

 今回使った技術については、写真や文章を後世に残していきたいと考えている。「まねるのではなく、自分で考えてもっと良い技術にしていってほしい」。森田さんは次代を担う職人に期待を込めた。(手塚崇仁)

 ■大嘗祭 皇位継承に伴う一世一度の重要儀式。中心となる儀式「大嘗宮の儀」は、11月14~15日に行われる。起源は古代にさかのぼり、天皇が毎年収穫に感謝し国家安寧を祈る「新嘗祭(にいなめさい)」に由来。即位に伴う儀式として区別されたのは、第40代天武天皇の時からといわれる。戦乱などで室町~江戸前期の約220年間中断した例を除き、皇室の伝統として受け継がれてきた。

 ■斎田点定の儀 大嘗宮の儀で神々に供える米を育てる「悠紀」地方と「主基」地方を、亀甲を用いた占い「亀卜」で決める儀式。2つの地方にはそれぞれに米を育てる田んぼ(斎田)が設けられる。宮内庁によると、47都道府県のうち新潟、長野、静岡を含む東側から「悠紀」地方、残りの西側から「主基」地方を選ぶ。平成の斎田点定の儀では秋田県と大分県が選ばれた。

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