関西各地で家業を継いだ若手や後継者による中小企業の事業刷新が進んでいる。なり手不足などの影響で全国的に中小企業数は減少し、取り巻く環境が厳しくなっている中での後継者らの挑戦。民間企業で経験を積んだ後継ぎによる自社ブランドの立ち上げなど、柔軟な発想が廃業危機を乗り越えるきっかけになるかもしれない。(地主明世)
「西陣織の後継者と知り合ったことがきっかけで、この靴の製作が実現しました」。華やかな織り柄があしらわれた靴を手に取り、説明するのは大阪市浪速区の婦人靴製造販売会社「インターナショナルシューズ」の専務、上田誠一郎さん(31)。西陣織と靴職人の技術が合わさった婦人靴は4月から高島屋大阪店に並び、好評だという。
上田さんは大手靴メーカーに務めた後、後継者として平成27年、祖父が創業した会社に戻った。神戸市長田区や東京・浅草と並ぶ靴産地の大阪市浪速区と同西成区周辺は、最盛期に靴工場が100以上あったが、安価な海外製品の流通などで打撃を受け、現在は20社にも満たない。
「このまま何もしなかったら自然淘汰される危機感があった」。もともと大手メーカーの下請けだったが、上田さんは自社ブランドを設立。日本製の商品にこだわるファッションブランド「ファクトリエ」との共同開発を行い、29年9月からインターネットでの販売にこぎ着けた。価格は2万円以上と高値だが、靴職人の手作りにこだわった履きやすさなどが人気を集めている。
海外への流通を目的に中国・上海などのイベントにも参加し、納品を実現したほか、観光客向けの工場見学ツアーも始めた。「これまでの技術を生かして、今までとは違うことにチャレンジしたい」と上田さんは意気込んでいる。
4月18日、大阪市北区の商業ビルの会議室に近畿や東京の中小企業の若手後継ぎ5人が集まった。昨年2月から、有志が集まり家業の未来について活発な意見交換を行う場としてスタート。「壁打ち」と称して定期的に相談や意見を出し合っている。
婦人向け衣料製造などを行う「パレ・フタバ」(大阪府吹田市)の副社長、藤井篤彦さん(32)も参加者の一人。親族が経営する同社はアパレル部門の業績が伸び悩み、民間企業に勤めていた28年に呼び戻された。「想像以上の低迷した状況に引き返そうかと思った」
藤井さんは、少なかった大手ブランドの下請けを積極的に受注したほか、これまで活用できていなかった独自の素材や特殊加工を駆使して自社製品の販売を強化。昨年には過去最高の売り上げを記録した。藤井さんは「将来的には社員が夢を描ける会社に成長させたい」。若手の挑戦が続いている。
■事業承継の遅れが廃業に
中小企業庁や東京商工リサーチによると、全国的に中小企業数は減少している。休廃業や解散数は、平成30年に4万6700件を超えた。休廃業などに至った代表者の年齢は70代が約4割を占めており、後継ぎ問題などによる事業承継の遅れが廃業などにつながりやすいとみられる。
東京に次ぎ、全国で2番目に中小企業が多い大阪府によると、26年の府内の中小企業は約29万社で、5年前よりも約3万社減少。子供らに引き継いでほしいと希望していても、具体的な話ができていないケースが多いという。
担当者は「事業を引き継ぐには時間がかかる。早く伝えた方がよいが、経営が上向きとはかぎらない中で、後継者側にも将来への不安がありなかなか踏み切れないようだ」と指摘している。