土佐和紙の糸を使った「紙布」の帯が完成した。素朴な風合いが魅力で、高知の雄大な海と大地をイメージした藍色と茶色に染められている。考案した高知市の呉服店「特選呉服いしはら」の石原文子さん(56)は「伝統工芸品の和紙と帯、それぞれの魅力を知ってほしい」と話す。
紙布の縦糸には木綿、横糸に土佐和紙が用いられている。強度を高めるために手でよられた木綿糸は通常よりも太い。織ると表面に凹凸ができ、帯には珍しいざらざらとした手触りが楽しめる。
文子さんは結婚を機に土佐和紙発祥の地で、原材料コウゾの名産地の高知県いの町に住み始めた。夫でいしはら店主の伸治さん(57)は「妻は和紙に目がないんです」。約5年前、県内のカフェで100年以上前の土佐和紙で作った紙布の帯と出合い、乳白色でごわごわとした見た目に魅了された。
自分でも手掛けたいと素材を求め、いの町の紙産業技術センターに相談。土佐和紙の産地の同県日高村で作られている「ひだか和紙」にたどり着いた。極めて薄いが丈夫で、絵画など文化財修復のためパリのルーヴル美術館で使われるなど高い評価を受けている。
和紙を裁断して糸をよる技術を持ち、紙布の帯を作ったのは福井県越前市の和紙作家、竹内康子さん(69)。伸治さんが京都の呉服店から紹介を受けた。竹内さんが帯に土佐和紙を使うのは初めてで、「肌触りがなめらかで繊細な印象を受けた」と語る。
商品化したのは女性用の名古屋帯(税抜き18万円)と男性用の角帯(同9万円)。高級な帯と和紙の消費者離れが懸念される中、夫妻の「伝統を残したい」という思いが込められている。
文子さんは「高知では見つからなかった紙糸をよる職人さんと出会えた。竹内さんと連携し、より安価なコースターやバッグを紙布で作り、土佐和紙の知名度を上げたい」と意気込んだ。