特徴・産地
二風谷イタとは?
二風谷イタ(にぶたにいた)は北海道沙流郡平取町(ほっかいどうさるぐんびらとりちょう)で作られている木彫りのお盆です。平取町という名前の由来はアイヌ語の崖と崖の間をさす「ピラウトゥル」から来ています。
二風谷イタの特徴はその図柄です。アイヌ語で「モレウノカ」という渦巻型の文様や、「アイウㇱノカ」という棘状の文様、「シㇰノカ」という目のような文様が組合わさって美しいアイヌ様式の模様を形作ります。さらに二風谷イタには必ず「ラㇺラㇺノカ」というウロコ彫りが、文様の隙間を埋める様に彫り込まれています。かつてのアイヌの人々の暮らしの中での作品は日用品として、現在は現代作家による緻密な工芸品として存続しています。
歴史
二風谷イタは、その形状からお盆として認識されていますが、アイヌ伝承の民話ウウェペケレの中では、直接料理を盛るお皿的な役割であったということが歌われています。
アイヌの生活には刃物が欠かせず、男性は刃物を器用に使えるということがステータスでした。そのため、アイヌの男性は適齢期になると、お目当ての女性に精魂込めて作った木彫り作品を贈ったそうです。そのような背景の中、二風谷イタを始めとするアイヌの木彫り作品は古くから贈与、交換、販売という商取引にも高い価値が認められていました。
江戸時代幕末の安政年間(1854年~1859年)には松前藩の幕府献上品の中に、イタがあったことが記載されており、さらに1873年(明治6年)にはウィーン万国博覧会にもイタが出展されています。2013年(平成25年)の3月に二風谷イタは経済産業大臣から北海道で初となる伝統的工芸品に指定されました。
制作工程
1.底取り(そこどり)
二風谷イタの材料はカツラ、クルミなどの北海道産の板を3年間乾燥させたものを使用します。それらの材料を、まずは荒彫り(あらぼり)という工程で、盆の深さをある程度調節します。底取り(そこどり)は、荒彫りした板の内側を皮裁ち包丁(かわだちぼうちょう)という平たく先端に刃がついているヘラのような包丁で、丁寧(ていねい)に彫り込んで、面の深さを一定に滑らかにする作業です。なお、荒彫りの際、四角い二風谷イタは旋盤(せんばん)という回転しながら彫り込む機械がつかえないので、円盤(えんばん)状のイタに比べて制作に時間がかかります。
2.裏面仕上げ
二風谷イタは木製品ですので、イタの裏面も綺麗に角を落とし面取り(めんとり)します。この工程によって作品の手触りの良さが決められます。
3.文様彫り
イタの表面に文様(もんよう)をデザインします。二風谷イタの文様は静かに曲がるという意味の「モレウノカ」という渦巻(うずまき)文様と「アイウㇱノカ」という棘(とげ)のある形、「シㇰノカ」という目をイメージした形の3つの文様を組み合わせて図柄を作ります。そのバランスと配置でそれぞれの二風谷イタの顔がきまります。
図柄ができたら、まずは三角刀で文様の輪郭(りんかく)を線取り(せんとり)し、次に丸のみで掘り下げ立体感を作ります。現代は彫刻刀(ちょうこくとう)で繊細(せんさい)に作られますが、アイヌの時代にはマキリという短刀一本でつくられていました。古代のイタは素朴ながら力強い線が彫り込まれています。
4.二重線彫り
二風谷イタのメインの文様は「アイウㇱノカ」となる場合が多いです。二重彫りではメインの文様の「アイウㇱノカ」の中を少し削るように彫り込みます。この工程によって刻まれる立体感がイタの表情をさらに豊にしてくれます。
5.ウロコ「ラㇺラㇺノカ」の線入れ
文様の「モウレノカ」や「シㇰノカ」の間に「ラㇺラㇺノカ」というウロコ彫りをする為の線を、印刀(いんとう)という印鑑を作る際に使う彫刻刀を使い引いていきます。この時。木目を縦方向にするのが決まりとなっています。二風谷イタでは、一作品に「ラㇺラㇺノカ」を文様と文様の間を埋めるように多用します。
6.ウロコ(ラㇺラㇺノカ)の起こし
5で作った升目(ますめ)をひとつひとつ、うろこ状に起こしていきます。この時に左右から中心に向かい合わせになる様に彫るということが決められています。この作業で升目の半分は彫られることになります。この「ラㇺラㇺノカ」の描き出す風合いが二風谷イタならでは表情を決定づけます。
7.仕上げ
最後に全体の細部を細かく丁寧に調整し、二風谷イタは完成します。