特徴・産地
川連漆器とは?
川連漆器(かわつらしっき)は、秋田県南部の湯沢市川連町で作られている漆器です。古くよりお椀やお盆、重箱など、生活用品が多く作られ、普段使い用の漆器として親しまれてきました。
川連漆器の特徴は、価格が手頃でありながらとても堅牢であることです。その理由は、「下地」の工程にみることができます。
漆器作りの工程の中で、下地は、木地を丈夫にするための大切な作業です。柿渋と炭粉を混ぜたものを塗り、乾燥後に研ぐ「地炭つけ」、更に柿渋を塗って研ぐ「柿研ぎ」、生漆を塗る「地塗り」を数回繰り返します。この繰り返しの作業こそが、川連漆器の堅牢さの理由です。また、柿渋と炭粉は生産コストが抑えられるため、「手頃な価格でなおかつ堅牢な漆器」が実現したとされています。仕上げには「花塗り」の技法が用いられています。乾燥後、研がずに刷毛で塗ったままの状態でなめらかな表面に仕上げる高度な技術で、川連漆器がもつ温かみは花塗りによるものと言えます。
現在、生産の約6割はお椀が占めていますが、伝統を守りながらも時代に適応した小物から家具まで多くの品を全国に送り出しています。
歴史
川連漆器の歴史は、約800年前の鎌倉時代に始まります。当時、源頼朝の家臣からこの地の城主となった小野寺重道の弟道矩が、豊かな森林資源と漆を活用して、武具に漆を塗る内職を農民たちにさせたのが始まりとされています。1年の多くを雪の中で暮らす川連村は、それまで生業としてきた農業だけでは生活が困難なくらい困窮していたため、始められたのがこの内職です。
その後、17世紀半ばにかけて、地場産業として本格的に漆器作りが始まりました。その当時、川連村を中心として26戸が椀師稼業を営んでいたという記録が残されています。江戸時代後半には、藩の保護政策を受けながら、椀や膳、重箱などの日用品が幅広く作られるようになるとともに、「沈金(ちんきん)」や「蒔絵(まきえ)」の加飾も施されるようになりました。販路も他国にまで及び、産業としての基盤もさらに大きくなっていきました。
戦後の不況下にも地道に発展を遂げ、堅牢さと実用性が高く評価された川連漆器は、1976年(昭和51年)、伝統的工芸品に指定されました。現在も、秀逸な技術と伝統はそのままに、幅広い分野の製品が生まれています。
制作工程
1.原木
椀などの丸物には、ブナ、トチノキが、また、重箱などの角物、丸盆のような曲物にはホオノキ、スギ、ヒバなどの木材が使われます。奥羽山脈の麓という恵まれた森林資源により生まれた川連漆器ですが、原木となるのは樹齢200年以上の木とし、木を絶やすことのないよう山の維持管理が徹底されています。
2.木取り
原木を輪切りにします。その後、節や傷みのある部分などを避け、用途に合わせたおよそのサイズに切り出し、ブロック状にします。
3.荒挽(あらびき)
木取りしたブロック状の木材を器の形に削る工程です。木材をろくろに取り付けて、内側はくり抜き外側はおおまかに挽きあげてゆきます。その後、木渋を抜くために煮沸します。木のゆがみ防止や防虫効果も兼ねています。
4.乾燥
さらに木のゆがみを防ぐために、1か月間、煙の循環する中に置き、燻煙乾燥させてゆきます。木地内部に含まれる水分が10%程度になるようにします。
5.仕上挽(しあげびき)
木地の最終工程です。乾燥し寸法が安定した木地を再度ろくろに取り付けて、カンナを移動させて表面を挽きあげ、なめらかで美しい状態に仕上げます。さらに椀の底部分を削り、椀の形が完成します。
6.地炭つけ、柿とぎ
ここから、川連漆器の特徴でもある下地の工程です。柿渋と炭粉を混ぜたものを、藁でできた刷毛でしごくように塗りつけてゆき、乾燥したらそれを研ぎます。次に柿渋を塗り、同じように乾燥後に研ぎます。
7.地塗り
駒毛と呼ばれる馬の尻尾から作られた刷毛で、擦り込むように生漆を塗りつけてゆきます。柿研ぎとこの地塗りを5~6回繰り返すことで、水分が木地に浸透するのを防ぎ、ゆがみのない堅牢な漆器へと仕上げることができます。下地の最終工程です。
8.地塗り・中塗り・上塗り・花塗り
塗りの工程に入ります。下塗りをしたのち、徐々に仕上げの色に近づくよう漆の色合いを調整しながら、中塗り、上塗りへと進めます。塗っては研ぐという工程を6~7回くり返しますが、そのつど漆をしっかりと乾燥させてから塗り重ねてゆく必要があります。気温や湿度などによって繊細に変化する漆の性質を正確にとらえることが要求される工程です。
仕上げは、「塗り立て」または「花塗り」とよばれる技法を取り入れています。漆を塗ったあと、研がずにそのまま乾燥させる技法です。塗りムラや刷毛の目が出ないように塗ってゆく高度な技術が必要であり、また、埃をつけることができないため、細心の注意が必要となる作業です。
その後、用途によって、漆器をより華やかに仕上げるための「沈金」や「蒔絵」で加飾が施されます。
川連漆器は、工程ごとの分業で成っており、何人もの職人の手によって完成する漆器です。また、工程数が多いため、完成までに約1年という歳月を要します。