日本の伝統文化が色濃く残る金沢市。その代表ともいえるのが、絹の生地に花鳥風月の模様を鮮やかな染色で描く加賀友禅だ。生地の細かな模様は全て職人による手描きで、その染色作業は繊細を極める。基調となるのは藍色やえんじ色など深みのある加賀五彩だ。
鮮やかに染められた加賀友禅の着物を広げると、そこに表れるのは草花の模様などが描かれた一枚絵だ。通常の着物は様々な模様がデザインされるが、加賀友禅は古くから四季折々の自然を染色で表現してきた。
金沢では華やかな着物姿の若い女性が多くみられるが、その着物のほとんどは合成繊維をプリントでデザインしたもの。加賀友禅は加賀五彩を基調にグラデーション技術を駆使して、染色のみで着物の立体感を出す。デザインの精緻さと色の奥行きが最大の特徴だ。
加賀友禅の製作はまず、紙とペンから始まる。作家が原寸大の紙にデザインを描き、その上に白生地をかぶせて写し絵の要領で下絵を写していく。
その後、染料のにじみを防ぐのりで下絵をなぞり筆で染色に入る。下地を染めて、色を定着させる蒸しや水洗いなどの工程を経て完成する。特に水洗いは、市内を流れる浅野川などに生地を広げる「友禅流し」として広く知られている。
加賀友禅を体験したい人は、兼六園近くにある加賀友禅会館(金沢市)などで、職人による下絵の色塗りなどの見学ができるほか、染めの体験会にも参加できる。市内には観光客向けに加賀友禅のレンタルサービスを実施している店舗もあり、着用して観光地を巡ることもできる。
加賀友禅の名前の由来は江戸時代に活躍した画工である宮崎友禅斎だ。傑出した加賀友禅の「デザイナー」で、加賀友禅が一般に広く普及したのは友禅斎の存在が大きかったという。加賀藩が豊かな財力で美術工芸を奨励したほか、河川による豊富な水資源も染色技術の発展に寄与した。
ただ、加賀友禅は他の伝統工芸と同様、市場が縮小傾向にある。近年では加賀友禅を使ったシェードランプなどのインテリアや、男性向けのシャツなど新たな需要の開拓にも取り組んでいる。