鎌倉彫の職人として70年近くにわたって製作活動を続け、鎌倉彫伝統工芸士会会長なども歴任した小園博さん(87)がこのほど、『鎌倉彫 遊心集』と題した作品集を出版した。小園さんはこれまで依頼を受けて製作した商品以外はほとんど販売しておらず、掲載した作品の多くは工房に眠って来たもの。「集大成と言える作品集になった」と話す。
小園さんは秋田県由利本荘市の出身。同県の職業訓練校で学んだ後、1952年に市内長谷の鎌倉彫工房に入社し、58年には独立して「小園漆工房」を設立した。
これまでに朝日現代クラフト展をはじめ多くの美術展、漆器展で受賞してきたほか、2009年には神奈川県から「卓越技能者」として表彰。また、伝統鎌倉彫事業協同組合理事長や鎌倉彫伝統工芸士会会長などを歴任し、業界の発展にも力を尽くしてきた。
追及してきたのは「生活の用の美」だ。小園さんはある雑誌の寄稿で「私は彫りの躍動感、漆の深い色、侘び寂、古くて新しい文様、文様の中の時間性、絵画風の構成のなかの叙情性、現代の暮らしの中で使える『もの』としての鎌倉彫を創っていくことに至福感を持っている」と語っている。
70年に迫るキャリアのなかでは、依頼を受けて製作した「実用品」以外にも、自らの思いやアイデアを表現した数百点に及ぶ「1点物」の作品を完成させてきた。ただ、これらのほとんどは販売しておらず、人目に触れるのは個展などわずかな機会だけだったという。
「闘病の支えに」
小園さんは2年前に骨髄異形成症候群という難病を発症。現在は製作活動ができない状態だ。作品集の企画は「病気を乗り越えるモチベーションになるように」と、長男で同じく鎌倉彫職人の敏樹さんが中心となり約1年前から進めてきたもの。小園さん自身も作品選びに携わり、約100点を撮影。7月半ばに完成した作品集を目にした小園さんは「鎌倉彫の未来に向けて自分の役割を果たせた」と話したという。
また、小園さんは16歳で俳句を始め、これまでに4冊の句集を発表している。今回の作品集では鎌倉彫作品の一つ一つに自作の俳句が添えられている。敏樹さんは「父の作品は伝統的技法のなかに先進性がある。俳句も含めて、独特の詩情や叙情感に触れてもらえたら」と話している。
「遊心集」は1冊4860円(税込)。鎌倉彫工芸館(由比ガ浜3の4の7)で販売中(同館は8月19日(月)まで夏季休館)。または敏樹さんの工房「青樹庵」でも受付。
希望者は【FAX】0467・67・7251へ氏名、住所、連絡先の送付を。