伝統工芸品に携わる地方の老舗の社長が、海外で上場会社のトップに――。こんなことが現実になるかもしれない。富山県高岡市の鋳物メーカー、能作は今月、台湾企業と貴金属製の贈答品や雑貨を作る合弁会社を現地に設ける。台湾と中国で計350億円超の売り上げを目指し、台湾での上場をもくろんでいる。
能作は銅器の街として知られる高岡の代表的存在だ。4代目の能作克治現社長が食器などに手を広げ、東京都内や関西の百貨店にも店舗を持つ。高いデザイン性が訪日客の人気を集めていることに目を付けて合弁を打診したのが、台湾・路達工業(LOTAグループ)だ。自分の国や地域に戻っても日本が関わる商品を購入する「帰国後消費」の需要を開拓できると考えた。
LOTAはキッチン金具などの受託生産で世界70カ国の企業と取引があり、売上高は6000億円に達する。一方、能作の年商はわずか16億円だが、合弁会社は能作が51%を出資し、トップも克治氏が務める予定だ。能作が企画・デザインした商品を、LOTAが中国に持つ工場で3Dプリンターなどの最新技術を使って仕上げる。
帰国後消費といえば、大手企業が手掛ける化粧品や菓子が大半だった。能作の例は地方の伝統工芸にもその流れが及んでいることを象徴する。「日本は少子化で市場が縮む一方。海外に出ないと生き残れない」。克治氏は鋳造以外の製法で造る商品の普及を恐れる社内をこう説き伏せた。
2019年の訪日外国人の旅行消費額は4兆8113億円と7年連続で過去最高を更新した。日本の商品を気に入った人が海外で確実に増えている。伝統工芸産業が着目すべき市場だろう。