かつお節を削るように、カンナの上で鉛筆の先端をスライドさせる。シュッシュッと響きのいい音を立てながら、徐々に鉛筆の芯がとがっていった。削るというより「研ぐ」といった感覚に近い。
「世界一時間のかかる鉛筆削りです」。角利製作所(新潟県三条市)の加藤睦宏社長は笑う。鉛筆削り「Shin」は、カンナやノミを手掛ける同社が、鍛冶職人や木工職人の技術をつぎ込み開発した。削り刃には高級カンナに使う「日立安来鋼青紙」を使用。本体は国産の赤ガシで、木のぬくもりが感じられる。
海外を中心に大工道具を販売する同社が、「製品の幅を広げたい」と文房具の開発に乗り出したのは2014年。「鉛筆を削るためのカンナ」をイメージし、ドイツで日本雑貨のセレクトショップを運営するサトミ・スズキ氏の助言も取り入れながら完成させた。
「Shin」は2段構造で、上段が鉛筆削り、下段がくず入れと鉛筆を2本収納できるペンケースになっている。1台2万円と高額だが、ドイツでは富裕層を中心に引き合いがあるという。
4月からは銀座ロフト(東京・中央)などでも展示販売が始まり、ギフト用として人気を集める。
商品名の「Shin」には「芯」「真」「清」「心」など、様々な意味を込めた。現在は、鉛筆削り機能だけに特化した小型タイプ(1万3500円)もそろえている。
書道家は墨をすることで、精神を集中させるという。忙しさに追われる時代。「仕事を始める前に、芯を削りながら心も研ぎ澄ます時間があってもいいのでは」と加藤社長は言う。