職人さんの技術力でストレスフリーな萬古焼の急須

3時のおやつ。お菓子をいただくときに欠かせないのが、お茶。

みなさん、どんな急須でお茶を淹れているだろうか。

と、その前に、そもそも家で急須を使ってお茶を淹れて飲んでいるだろうか。近年はペットボトルのお茶が普及し、急須でお茶を淹れる方法がわからない日本人が増えているというから、少し寂しさを感じる。ペットボトルのお茶の利点は、いつでもどこでも蓋を開けたら、すぐに飲めることだろう。その点は大変便利だが、長期保存して流通させるために、どうしてもビタミンCが入ってしまうのが難点。私はどうも、ビタミンCの味が気になってしまい、お茶本来の味を楽しむことができないので、家では必ず急須でお茶を淹れている。

暮らしを豊かにしてくれた「萬古焼の急須」

20歳の頃、雑誌の取材の仕事でお伺いした三重県四日市市の萬古焼の職人さんとの出逢いが、私の人生を変えた。取材のあと急須を買って帰り、家で使い始めて驚いた。急須でお茶を淹れる時、いつも気になっていたのが、なぜだか急須からお茶が少しこぼれてしまうこと。仕方なく布巾を常備して、こぼれるのを前提に急須と付き合っていた。しかしながら、それは急須側に問題があった。蓋と注ぎ口の精度が低いので、こぼれていたのだ。私が出逢った萬古焼の職人さんの急須の注ぎ口は、「こんなにも心地良いのか!」と、感動するほど水切れが良い。

この急須に出逢ってから、お茶がこぼれるストレスがなくなり、お茶を楽しむことに集中できるようにもなった。職人さんが細部にまでこだわった急須に変えたことで、毎日の暮らしが心穏やかに、豊かになるという感覚を実感し始めた。たかが道具、されど道具。暮らしの豊かさは、道具ひとつで変えられるのだ。

萬古焼は今から約300年前に始まり、地元で採れた紫泥の土で作られている。紫泥の土は、鉄分を含んでいる赤土粘土。半磁器と言われ、石と土が混ざっているのが特徴。還元焼成を行い、釉薬をかけずに焼締める。紫泥の土は緑茶の渋みをとり、まろやかにしてくれるとも言われている。

急須に求められる職人の高い技術力

急須は焼き物の中でも、非常に難易度の高い製品である。その理由はパーツの多さと、パーツ一つひとつの精度が急須の機能性に直結してくるからである。

蓋、取っ手、胴体、茶こし、そして最も重要な注ぎ口の、5つのパーツから構成されている。一つずつろくろで挽いていき、くっつけて一つの急須が出来上がるのだ。

萬古焼の土は、焼くと2割近く縮むので、この収縮率も計算して作らなければならず、毎回少しずつ土の性質も変わるので、職人さんの技術が試される。だからこそ、職人さんたちは何十年もかけて技術を磨いていくのだ。

「蓋の穴」の正しい位置を知っていますか?

そういえば、始めて萬古焼の取材をしたとき、茶こしにも感動したのを今でも覚えている。大学生の頃までは茶こしといえば、金属かプラスチックの茶こししか知らなかったのだが、萬古焼の急須には、最初から茶こしがくっついていたのである。急須と同じ紫泥の土でできた共土(ともつち)の茶こし。穴はすべて手で一つひとつ丁寧に開けられている。どこまでも手間を惜しまない萬古焼、まさかの急須の中にまでうっとり。

ところで、急須の蓋に開いている空気穴の正しい位置をご存知だろうか。

正解は、注ぎ口の直ぐ近く。ここから空気が入ることで、茶葉が急須の中で循環するそうだ。以外と知らない正しい蓋の位置。日本料理屋さんへ行っても、なかなか正しい位置に蓋を置いているお店に出会えない。ぜひこの機会に覚えておくと、ちょっぴりかっこいいのではないだろうか。

世の中には様々な急須がある。

自分自身が、どんな急須と共に暮らすと豊かさを感じるのだろうか。

自分のそばに置く道具、今一度見直してみてはいかがだろうか。

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