職人 VS ディープラーニング、AIの本当の価値とは

日々、日進月歩で進化するAIも、現状では熟練者の「職人ワザ」を再現することは難しいといわれています。AIを活用しても現場の完全無人化は難しいのです。では、今AIを導入する価値とは何なのでしょうか。

AIやAI画像認識に対する誤解を解きながら、AI画像認識の導入や活用を成功へと導くためのポイントを紹介する本連載。ディープラーニングで「できること」「できないこと」を明らかにしながら、以下の3つの「真実」についてお伝えしています。

3つの真実
真実その1 課題によっては、ディープラーニングを使わないほうがよい領域がある
真実その2 ディープラーニングの頭脳を育てるには相当の労力がいる
真実その3 画像認識だけでは、製造ラインの完全自動化は難しい
今回は、これらのうち「画像認識だけでは、製造ラインの完全自動化は難しい」という真実について解説します。

真実その3:画像認識だけでは、製造ラインの完全自動化は難しい

AI技術は日進月歩で発展しています。とはいえ、今日のAI画像認識技術だけでは、現場の熟練者の「職人ワザ」を再現できる範囲は限定的でしょう。

現場の熟練者は、長年の経験をもとに、発生しうる異常の兆候を、さまざまな手段で収集した情報から総合的に判断し、察知します。また、その兆候が確認された場合には、その異常が顕在化しないように、いろいろな対策を講じるでしょう。もちろん、異常というネガティブな事象の回避だけでなく、どのような状態を維持すれば最も効率的に成果を出すことができるかも知っています。

図1 熟練者とAIの情報判断 イメージ図

一方のAI(ディープラーニング)はどうでしょうか。画像認識の技術は、専門家や熟練者を超える認識が行える場合もありますが、熟練者と比較して圧倒的に不利な立場にあります。というのも、AIに入力される情報が、画像という視覚的な情報だけに限定されているからです。物事の判断を下すうえで、視覚的な情報が大きな割合を占めると予想されますが、それでも、人は嗅覚や指先の感覚など、五感全てを使って物事を判断しており、それができないAI画像認識に人以上の認識精度を求めるのはなかなか難しいと言わざるをえません。

このように考えていくと、人が行っている作業をAIに代替させるには、AIにも、人と同じような感覚(情報の入力手段)と手・足(出力手段)を持たせ、それを統合的に機能させることが必要であるとの結論に至ります。

もちろん、視覚情報だけで必要な判断が下せる場合や、熟練者ほどの認識レベルが必要とされないケースもあるでしょう。そのような現場では、比較的早い段階でAI画像認識による自動化が進むかもしれません。ただしそれでも、完全無人の状態で回せるような現場は、それほど多くはないと思われます。

これは少し余談になりますが、今日の日本におけるAIの技術レベルは、残念ながら米国などのグローバル市場から後れを取っています。ただし、今後、日本が巻き返す可能性があるとされています。というのも、これからは、AIの情報の入出力において、正確な値を計測するセンサー技術や、判定した結果をもとに正確にモーターを駆動させるメカトロ技術が必要とされるからです。これらの技術は、細かなものづくりや正確な実装など、日本の企業──とりわけ、日本の中小企業が得意とする領域の技術です。その点を加味しながら、将来的な自動化の行方を見定め、投資計画を立案されることをお勧めします。

いずれにせよ、AIによる製造ラインの「完全自動化」をすぐに実現することは難しく、本連載の最初のテーマとして掲げた「製造企業が陥りやすい5つのミスジャッジ」でも述べた通り、AI画像認識を単なるコスト削減の道具とは考えないほうが無難です。

その一方で、AIが、さまざまな経営課題を解決する有効なソリューションとなりうることも確かです。ですから、AI画像認識の導入目的を明確にしたうえで、どうすれば早い段階から価値を手にできるかを考えることが大切です(図2)。

図2 AI画像認識の現場でのユースケース

図3は、AI画像認識を含むデータ分析が価値につながるケースを模式的に描いたものです。ここでは、AI画像認識を、画像(という膨大な情報を含むコンテンツ)から意味ある情報を取り出す手段として捉えています。

ここで取り出された情報は、例えば、IoTセンサーから出力されたデータも合わせ、デジタル化された情報として処理されるでしょう。その際、単に情報をグラフ化するだけで、見えなかった傾向が見えてくるかもしれません。

多くのパラメーターがある場合、それぞれのパラメーターにどのような因果関係があるかが分からないことがありますが、データ分析によってその因果関係が見えるようになるかもしれません。また、その変化の傾向がつかめれば、将来予測に使えることもあるでしょう。

このように、AI画像認識を使えば、人が目視しているイメージを情報に変換することができます。認識した1つずつの情報が価値になる場合もありますし、その情報を蓄積すればビッグデータという形での価値となることもあるでしょう。

いずれにせよ、「何が目的なのか」を明確にしたうえで、目的の価値はどの過程で生み出され、そのために必要な情報が何かを特定して、情報を収集することが大切です。

図3 価値を生むプロセス

では、こうした適用シーンの見つけ方、導入の優先順位付けなどはどう行っていけばよいでしょうか。次回以降は、その具体的なアプローチを紹介します。

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