「部品屋」が完成品販売へ 和包丁柄専業の山謙木工所

和包丁の柄の専業メーカー、山謙木工所(福井県越前市)は来春、和包丁の自社ブランド品の販売を始める。2020年3月末をメドに現本社横にギャラリー兼販売店を建設する。柄のメーカーが完成品を自社で組み立て、販売するのは業界では禁忌とされていたという。ただ地域の伝統工芸品「越前打刃物」の知名度向上や若手職人の獲得のため川下展開に踏み切る。

山謙木工所の柄は、堅い木の芯の部分に柔らかい木を入れて合板のキャップをかぶせる

ギャラリー兼販売店は2階建てで、1階は完成品の展示と販売、2階には商談のできる応接室を作る。投資額は5千万円前後の見通し。刃の部分は様々な企業の製品を使うが、柄は全て自社製とする。柄をブランドの中心に据えた店舗は全国でも初めてという。

新設するギャラリー兼販売店は1階が販売と展示、2階が応接室となる(完成予想図)

販売する包丁は地元の鍛冶屋から購入したものを、同社の製造した柄をつけて組み立てる高級品が中心。高級包丁が中心で、月100本程度の販売を目指す。

同社は1912年創業で、現在の山本卓哉社長で4代目。同社の柄はカシなどの堅い高級木の芯の部分に柔らかい木材を入れ、積層合板のキャップをかぶせて固定するのが特徴だ。堅い木だけで柄を作ると刃物を取り付ける際に割れやすくなるが、刃物を固定する部分に柔らかい木を使うことで組み立てやすく、壊れにくくなる。

同社は福井県内では唯一、全国でも数社しかない和包丁の柄の専業メーカー。年間5万~6万本の柄を生産し、売上高は9千万円程度。全国の高級和包丁に使われ、約半分は完成品として海外に出荷されているという。

越前市は越前打刃物の産地で、刃物メーカーが集積する。同社の近隣では刃物メーカーの龍泉刃物が19年に自社ブランドの販売店を作るなど、新たな動きが目立っている。高級な手作り刃物を求めて、海外から訪れる観光客やバイヤーも増えている。

従業員の平均年齢は60歳程度と高い(福井県越前市)

だが、地元の若者の多くは市内にある大手企業の工場への就職を希望する。山謙木工所も7人いる従業員の平均年齢は60歳程度。事業継続には新たな担い手の確保が必要だ。「地元にこういう企業があると知ってもらい、就職先として目を向けてもらいたい」(山本社長)。観光客呼び込みと地域の若者へのアピールに自社ブランドの販売店が必要だと考えたという。

山本社長は「柄メーカーは伝統的にあくまで部品屋と思われ、完成品を作って売るのはタブーだった」と話す。業界では刃物メーカーや卸問屋が柄を仕入れ、組み立てて販売するのが一般的だ。

しかし山本社長は「今はそんな時代じゃない。産地全体を盛り上げるため、できるかぎりのことをしていく」と、完成品販売に向けて自ら組み立てや研ぎの技術を学ぶ。「地域と連携して多くの観光客を呼び込み、産地の活性化につなげたい」とさらに力を込める。

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