【佐藤オオキ】気鋭のデザイナーが考える伝統的工芸品が生きる道

デザインオフィス「nendo」を率いる佐藤オオキ氏。建築、インテリア、プロダクトなど世界中からオファーが舞い込む気鋭のデザイナーである。日本の伝統技術と現代のデザインを融合した商品開発にも数多く携わってきた佐藤氏の目に、産業としての伝統的工芸品の可能性や課題はどう映るのか。

目次

印象的だったコラボ

-伝統的工芸品の産地や作り手とのコラボレーションを通じて、斬新な作品を生み出してこられました。こうした取り組みを通じて共通して抱く思いや印象はありますか。

「伝統工芸というと、どうしても『変わらない』『保守的』といった印象を持たれがちです。ところが、僕らがものづくりでのコラボレーションを行った作り手の皆さんは全く逆で、どんどんと新しい技術やトレンドを吸収されようとしているのが印象的です。国内外を問わず、これまで多くの伝統工芸の作り手の皆さんとコラボさせていただいてきましたが、門外漢の自分が『こんなことできますか?』と、素人目線で相談させていただく質問も、頭ごなしに否定されることなく、どうやったら実現可能なのかを精一杯検討してくれました」

-2015年のミラノ万博では、伝統的工芸品をクールジャパンとして世界に発信されました。産地の職人の方々と交流する過程で心に残るエピソードや特に思い入れのある商品を教えてください。

「半年で16作品を仕上げていくという、短期間でのプロジェクトでしたので、作り手の方の選定だけで相当な苦労があったのを記憶しています。印象的だったのは、(有田焼の名窯業である)源右衛門窯の金子昌司社長に「(全体テーマに合う)黒い有田焼ってできますか?」と伺った際、400年を迎える有田焼はこれまで白地と決まっていたにも関わらず、正反対の提案に迷わず『ぜひやってみましょう』と、前向きにお答えいただき、そのチャレンジ精神に感銘を受けました。他にも、同年代の作り手の皆さんの、伝統を守りつつも、新しいことにチャレンジしたいという前向きな姿勢に励まされ、なんとか会期を迎えられた、印象深いプロジェクトでした」

手仕事による正確で魅力的な絵柄を「目」ではなく「手のひら」で楽しめるようにしたいと考えデザインしたという黒い有田焼のお猪口。地は新たに開発・調合した釉薬でマットに仕上げ、そこに立体感とツヤ感のある模様を手描きしている。

「やったことがないだけ」

-伝統的工芸品の生産額・従業員数は1970年代をピークに減少しています。産業としての持続可能性を模索する上では、一部の愛好家だけをターゲットとするのではなく、販路を広げビジネスとして成立させる戦略が欠かせません。伝統的工芸品を現代の生活やライフスタイルに合致した商品を生み出す上で、伝統的工芸品を活用したビジネスを検討する企業側と作り手側双方に求められる視点は何だと思いますか。

「『制約』にとらわれないことだと思います。デザインの現場では、クライアントや作り手さんの『できない』という言葉で止まってしまうことが多いのですが、誰かが『できない』と言い出した時には、なぜできないのか、何ならできるのかを掘り下げ、思考を止めないことが大切だと思います。往々にして『できない』は、過去の慣例に根拠なくとらわれている結果であったり、『やったことがない』だけだったりします」

佐藤さんの最近の作品のひとつ。「空を覆い隠すのではなく、現してくれる傘(サントリー美術館)

暮らしに思い馳せ

-一方で日本の伝統的工芸品が、価値観が異なる世界で受け入れられるためには、どんな姿勢でものづくりやデザインに取り組むべきですか。

「『日本らしさ』にとらわれないことだと思います。海外で高い評価をいただいたnendoのデザインは、結果として海外で『日本らしい』と評価されることはありますが、デザインチームの20%以上は日本語を話さない外国人デザイナーですし、『日本らしさ』を意識してデザインすることはまずありません。伝統工芸というローカルな文化に根ざした技法を用いつつも、国籍や文化を超えた、人の暮らし、人の生活に思いを馳せていくことが重要だと思います」

【プロフィール】
1977年カナダ生まれ。2002年早稲田大学大学院理工学研究科建築学専攻修了、同年nendo東京オフィス設立。国内外での受賞多数。Newsweek誌「世界が尊敬する日本人100人」(2006年)、「世界が注目する日本の中小企業100社」(2007年)に選ばれる。米ニューヨーク近代美術館をはじめ世界の美術館に作品が収蔵されている。

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