和歌山県海南市の伝統工芸品「紀州漆器」。職人の高齢化や漆器離れなどにより産業がしぼんでいく中、この工芸品を生かして市や若手職人らが地域活性化や新たな価値の創出に取り組んでいる。
海南市は紀州漆器の魅力を発信し、産地である黒江地区を観光地として盛り上げようと、今年、県の事業「わがまち元気プロジェクト」を活用。事業費約8400万円をかけて「紀州漆器を活用した黒江ブランドの構築」を目指す。
市によると、漆器職人の後継者となる移住者を募集したり、漆器を国内外にPRしたりする。また、黒江にちなんだ土産品の開発や漆器で料理を提供するなど漆器の魅力を感じられるゲストハウスの整備などにも取り組む。
事業は3年間で、漆器の展示や販売をしている紀州漆器伝統産業会館の来館者数を2018年度の約1万7千人から21年度には2万人とすることなどを目標に掲げている。市の担当者は「古い町並みの場所だけれども、新しい人たちが国内外から入ってきてくれればと思う」と話す。
若手職人らが立ち上げたブランド「KISHU+」では紀州漆器の技術を用いた新たな作品で国内外の注目を集めている。
KISHU+は17年9月に立ち上がったブランドで、現在、市内4社の若手4人が取り組んでいる。18年にはフランス・パリであった「インテリア業界のパリコレ」と呼ばれる展覧会に紀州漆器の技術を使ったインテリア作品などを出品した。中西工芸の中西拓士さん(42)は「海外では食器は受け入れられにくい。だから、塗り物のインテリアや小物を出した。その中で照明器具に対する反応が良かった」と振り返る。
今年の同展覧会では照明器具3点を出した。島安汎工芸製作所の島圭佑さん(29)は制作について「実際に照明をともして光の漏れ具合や塗った金の濃度を見ていった」と説明する。月の満ち欠けを表現した照明の美しさなどが高評価を獲得。東京の展覧会にも出品すると、住宅展示場などから注文があった。国際的な視点で日本の素敵なものを選ぶ「クールジャパンアワード2019」にも選ばれた。
「従来持っていた技術を新しい表現に変えることができた。今までは漆器でしかお客さんにアプローチできなかったが、インテリアを求めるお客さんにも届く。こんなんできるんやという発見が大きい」と山家漆器店の山家優一さん(31)。
紀州漆器協同組合によると、組合の加盟社数は年々減少しており、14年には141社だったが、19年8月現在は113社になった。山家さんは同ブランドを「100年企業くらい続くようなものにしたい。次の世代につないでいきたい」。橋本漆芸の大橋善弘さん(39)は「伝統工芸が全体的に縮小していく中で若手が集まって世界や国内に発信していく。こうした取り組みが伝統工芸の産地のロールモデルになればいいなと思う」と話している。
紀州漆器 海南市の北西部、黒江地区を中心に生産されている。室町時代から続くとされ、時代の流れとともに木製からプラスチック製を採り入れるなど変化してきた。漆を塗ったり、蒔絵(まきえ)を施したりと工程ごとに分業制がとられており、ピーク時には紀州漆器協同組合に1300社が加盟していたという。1978年に国の伝統的工芸品として指定された。