広島)「うるしのむし」気鋭作家の情熱、伝統工芸展に

広島展に出品されている「乾漆螺鈿(かんしつらでん)うどんげの華箱(はなはこ)」

「うるしのむし」を名乗る、新進気鋭の工芸作家がいる。広島市出身の、しんたにひとみさん(32)。市立基町高校の生徒時代に、「何となく見にいった」日本伝統工芸展広島展が、漆を使う「漆芸家」を目指すきっかけになったという。

麻の布に漆を塗っては乾かし、塗っては乾かしを繰り返し、何枚もはり重ねて美しい箱に仕上げる。しんたにさんは、第65回日本伝統工芸展で高松宮記念賞に輝いた漆工芸のホープ。今は奈良市在住で、図面はパソコンで書く。3月1日まで広島県立美術館(広島市中区)で開かれる第66回展にも新作が展示中だ。23日には同館を訪れ、自作などを語るギャラリートークに100人近くが耳を傾けた。

自作を手に取って解説する、しんたにひとみさん=2月23日午前、広島市中区の広島県立美術館

高校で彫刻を学んだが、自己表現について考えあぐねていた。もともと考古学が好きで、縄文時代から土器などに使われていた漆に興味はあった。そんな時、工芸展で質の高い漆工芸に出会い、「うるしをやりたい」気持ちが固まった。

高校の担任から、漆芸で名高い林曉(さとる)さんを取り上げた雑誌「婦人画報」を見せられ、林さんが教授を務める富山大学芸術文化学部へ進学。その後、奈良在住の人間国宝・北村昭斎さんに師事し、螺鈿(らでん)細工(貝殻の内側などを切り出し、箱の表面などにはめこむ手法)などの腕を磨いた。

工芸と共にライフワークと語るのが「虫」だ。高松宮記念賞の作品はゴマダラカミキリをかたどったもの。現在展示中の「乾漆螺鈿(かんしつらでん)うどんげの華箱(はなはこ)」も、昆虫のクサカゲロウを重要なモチーフとしている。その卵は、3千年に1度花を開くという想像上の植物「うどんげ」に見立てられてきた。

歴史的見地から美術、文学、産業などでの人と昆虫の関わりを探る「文化昆虫学」に深く関心を持つしんたにさん。日本でも古くから昆虫がモチーフの美術作品は多いという。「昆虫採集に行くような軽い気持ちで、伝統工芸展に来てほしい。奥深い世界が見え、作家の情熱も感じられます」

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