江戸時代中期、尾張藩の時代から受け継がれる「名古屋友禅」。最大の特徴は名古屋の質素倹約を気風とする幽玄な「渋さ」だ。伝統工芸士として「瑞宝単光章」を受けた友禅師、堀部満久さんの工房「友禅工房堀部」(名古屋市西区、052・531・9875)は、友禅染の技術を活用した日用品を販売している。
名古屋友禅は京都や江戸から往来する友禅師がその技法を伝えたことから始まり、1983年に国から伝統工芸品の指定を受けた。しかし、近年は卸売業者が大量生産の既製品に販売軸を移したことで「一点物」の友禅は市場規模が縮小。堀部さんは「“腕さえよければいい”という時代から、“仕事を取ってこなければならない”時代へと変わった」と振り返る。
友禅は一つの作品を複数の職人が役割ごとに分担し製作するが、業界縮小に伴って職人の数も減少。しかし「何でもやれるに越したことはない」とあらかじめ一連の工程をすべて学んでいた堀部さんは、友禅工房を続けることができた。
市場規模が縮小する中、「これからの若い人は海外などの大きな規模で勝負してもらいたい」と期待する。視線の先にあるのは工房の3代目・堀部晴久さん。大学卒業後に父の満久さんに師事し、京都で7年間、京友禅を学ぶ中で生地の色を抜く「染色補正」の技術を会得し、名古屋に戻った。染色補正技術を活かし、落ちきらないシミを金彩加工などで隠すなど表現の幅を広げた。
友禅をより身近なものにするため、友禅で染めたハンドタオルなどの小物も製作する。「気軽に買って、日常で使えるものを販売している。東京五輪までにインターネットでの販売を通じて、名古屋友禅のブランド“染和(そわ)”を展開したい」(晴久さん)と夢を広げる。
染め物に興味を持ってもらうきっかけになればと、地域のイベントで「染め」の実演やワークショップも開催。自らの工房で行う友禅教室は20代から70代まで幅広い層が通っており、製品という「モノ」だけではなく、体験という「コト」でも友禅のファンを増やしている。満久さんは「友禅は日本の誇る文化。自分の国の文化を知り、大事にしてほしい」と語った。
「もっと多くの人々に友禅という日本の誇る文化を知ってもらい、ゆくゆくは海外の方が着物を持ち帰って自分の国で着てもらえるようになってほしい」(満久さん)と、名古屋友禅の未来に夢を描く。
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