福井県越前市の伝統的工芸品「越前打刃物」の技術を生かした野菜収穫包丁が生産者に好評だ。伝統工芸士の加茂勝康さん(79)が手掛けている。自ら産地を訪れ、野菜の形状や生産者の好みに合わせて40種類以上を製作。さびにくく鋭い切れ味と、先端まで刃を入れた構造で、収穫作業を省力化した。生産者やJA職員らの口コミで広がり、全国20道府県以上で使われている。
加茂さんは約40年前に、長野県の野菜生産者と共に収穫包丁の製作を始めた。キャベツなどを一日に数千株も切っていたことで、けんしょう炎になる生産者もいたことから、楽に切れる包丁の開発を進めた。先端まで刃を入れた包丁を考案し、刃先で芯を軽く押して切ることができるようにした。収穫時に葉を傷つけないように刃先を曲げる、畑で見失わないよう柄を赤色などで仕上げるなどの工夫も加えた。
収穫に対応できる品目を増やそうと、全国の野菜産地を回った。生産者と話すうちに、レタスやブロッコリーなど品目別だけでなく、左利き用や女性向けの軽量モデルなど、生産者の骨格や好みに合わせて製作するようになった。これまで40種類以上の収穫包丁を生み出している。
収穫包丁を広めるために売り込んだ先は、生産者の情報が集まる各地のJAだ。生産部会間の交流やJAの営農職員の口コミなどで切れ味などの評判が広がり、北海道から沖縄まで全国各地の産地で使われるようになっていった。現在、年間約6000本を販売。ほとんどの注文を各地のJAに取りまとめてもらうことで、販売時の手間が省け、価格も抑えられているという。
千葉県旭市の伊藤博道さん(73)は、加茂さんの収穫包丁を親子で愛用。約7ヘクタールでサニーレタスやキャベツなどを栽培しており「一日中切っても切れ味が落ちない。腕の負担も減り、この包丁以外はもう使えない」と笑う。
加茂さんは現在も産地を回り続けており、収穫包丁の改良に情熱を注ぐ。「何十年も使えて、生産者の好みに合わせられることが打刃物の強み。収穫を少しでも楽にする手伝いをしたい」と意気込む。