佐賀)有田焼、新たな挑戦 腕時計の文字盤に しん窯

文字盤製作を監修した橋口博之さん(右)と、「世界最高強度」とされる磁器を開発した蒲地伸明さん(左)=2019年10月4日午後4時29分、佐賀県有田町黒牟田

文字盤(ダイヤル)に有田焼を採用した腕時計「セイコー プレザージュ 有田焼ダイヤルモデル」が9月に発売された。手がけたのは佐賀県有田町黒牟田の有限会社「しん窯」。腕時計に求められる高度な精密さや強度といった、様々な技術的困難をクリアしてのことだった。

有田焼らしい、淡く青みがかった白色の文字盤は直径3・2センチ、厚さはわずか1ミリ。基本となる形の生地は、石膏(せっこう)製の鋳型を使う「鋳込み成形」で作り、1300度で焼成する。

生地は焼くことで縮む。腕時計の部品として求められる精度は0・01ミリ単位だ。監修した伝統工芸士で専務取締役の橋口博之さん(54)は「焼き物の世界は良くも悪くも、どんぶり勘定。マッチさせるのは並大抵のことではなかった」と振り返る。

文字盤作りには0.01ミリ単位の精度が求められる=2019年10月4日午後4時27分、佐賀県有田町黒牟田

均質な製品を作るため、鋳型に流し込む生地の原材料の水分を0・1%単位で管理。生地にかける釉薬(ゆうやく)も、施す方法やタイミングを変えるなど試行錯誤を繰り返し、文字盤に反りが生じるのを防いだ。

同時期、県窯業(ようぎょう)技術センター(有田町)の特別研究員、蒲地(かもち)伸明さん(48)らが、「世界最高強度」とされる磁器を開発。その強度は普通の磁器の3~5倍、従来の強化磁器の約1・5倍という。これを使うことで、腕時計に使うための落下衝撃テストをクリアできた。

有田町の統計書によると、町内の陶磁器関係販売額は1997年の約281億円から、2016年には68億円まで減った。

しん窯の製品は茶わん、小鉢、皿といったものが中心で、市場はほぼ国内に限られる。有田焼をめぐる状況が厳しさを増すなか、梶原茂弘社長(75)が「伝統を守るためには、新市場の開拓につながる挑戦をしなければ」と思案していた4年前、舞い込んだのが今回の文字盤製作の打診だったという。

腕時計はカレンダー付きが18万円、多針モデルが20万円(いずれも税別)の2種類。セイコーの「プレザージュ」ブランドで、上級にあたる「プレステージライン」シリーズとして世界で展開されている。

有田焼の文字盤を採用した「セイコー プレザージュ」(多針モデル)=セイコーウオッチ提供

高級腕時計の主要な販路は、中国人富裕層や日本の若者向けだという。部品ではあるが、1830年創業のしん窯にとって、新たな顧客層へのアプローチを果たせたことになる。しん窯は7月末までに5千個を納品したところ、8月に入ってから1500個の追加注文があったという。

セイコーブランドの腕時計の企画・開発と販売を手がける「セイコーウオッチ」(東京都)の担当者は「日本の美意識を体現した腕時計として、欧米でも高い評価をいただいている」とする。

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