特徴・産地
津軽塗とは?
津軽塗(つがるぬり)は、青森県弘前市周辺で作られている漆器です。この地方では江戸時代中期から漆器が作られてきましたが、津軽塗という呼び方が使われるようになったのは1873年(明治6年)のウィーン万国博覧会出品のときだと言われています。現在では津軽地方で作られる伝統漆器の総称として使われています。
津軽塗の特徴は、丈夫で実用性が高い一方で、外見がとても優美な漆器である点です。独特の「研ぎ出し変わり塗り」という技法により、幾重にも重なった色漆の美しい模様が浮かび上がります。津軽ヒバを使った素地に漆を数十回塗り重ねて研磨を施す工程を繰り返し、二カ月ほどかけて丈夫で厚みのある美しい漆器が作り出されます。
江戸時代には多様な技法が発展し、今も伝わる技法には津軽塗として代表的な「唐塗」(からぬり)、小紋のような模様が特徴の「七々子塗 」(ななこぬり)、炭粉と黒漆を用いるシックな印象の「紋紗塗」(もんしゃぬり)、高度な技術が必要な「錦塗」(にしきぬり)などがあります。
歴史
津軽塗が作られるようになったのは、江戸時代中期、弘前藩の第四代藩主であった津軽信政公(1646~1710年)の時代です。1642年(寛永19年)に参勤交代制が成立して上方や江戸の文化が地方に伝わるようになると、各地で地域の産業保護が行われ多くの工芸品が誕生しました。弘前藩でも塗師が招かれ、やがて塗師池田源兵衛によって独特の漆器が誕生します。
当初は武士の腰刀の鞘を飾るためのものでしたが、やがて津軽塗を用いたさまざまな調度品が作られるようになりました。当時の商人によって書かれた文献「津軽見聞記」によると、1758年(宝暦8年)には既に「唐塗」の技法が成立し、津軽塗の文箱や重箱、脇差しの鞘などが作られていたことが分かります。津軽塗の調度品は朝廷や公家、幕府への贈答品としても用いられ、藩によって手厚く保護され発展しました。
やがて明治になり、1873年(明治6年)のウィーン万国博覧会に青森県が津軽地方で作られる漆器を「津軽塗」として出展します。これにより「津軽塗」という呼び方が広く知られるようになり、その後も津軽塗は青森県の代表的な工芸品として発展していきました。
制作工程
1.木取り
最初の工程である木取りでは、木材を伐採した後によく乾燥させてから用材を切り分け、削り出しまでを行います。切り分けの際には、木質の固い部分や割れのある部分、節、芯などを大まかに切り取っていきます。板材を組み合わせて作る、お盆や座卓などの指物にはヒバが使われ、ろくろで削り出すお椀などの挽き物にはホオノキが使われます。
2.布着せ
津軽塗で主に使われる下地作りの技法は「堅下地」というものです。はじめに、木地表面や形を整える木地磨きを行い、研磨した木地全体に防水のために直接漆を摺り込みます。次に、木地の割れや狂いなどを防ぐために、布を米糊と漆を練り合わせて作る糊漆(のりうるし)で貼ります。布は木地の表面に巻き付けるようにして、木地としっかり密着させます。
3.地付け
最初に塗る漆は最も粗い地漆で、その後徐々に細かい漆へと変えていきます。地漆に使うのは山科地の粉(やましなじのこ)と生漆、糊漆を練り合わせたものです。ヘラで均一に塗った後、十分に乾燥させてから表面を研ぎます。その後、より細かい切粉、錆漆を塗り、同様に研いできます。ここまでの下地工程では水をつけずに研ぐことが特徴です。重箱の裏など模様付けをしない部分には中塗漆を塗って仕上げておきます。
4.仕掛け
下地の上に、素黒目漆(すぐろめうるし)に顔料、卵白を練り合わせた仕掛漆で斑点模様をつけていきます。仕掛ベラを使って全面に模様をつけ、5日ほどかけて漆の内部まで乾燥させます。
5.塗掛け(ぬりかけ)
仕掛漆が乾いたら、その上に刷毛で色漆を塗っていきます。仕掛け模様が際立つように、塗掛けには黒に対して黄色など対比の強い色漆を使います。
6.彩色(さいしき)
色漆で市松状に散らし模様を描き、唐塗の色調に彩りを添え華やかさを出していきます。主に使われるのは「両彩色」と呼ばれる朱と緑の色漆です。彩色により、唐塗独特の模様が生まれます。さらに上から透明で茶褐色の素黒目漆を塗ることで、落ち着いた色調になります。
7.妻塗り(つまぬり)
素黒目漆を全体に薄く塗り、上から錫の粉を蒔きつけます。この後に唐塗模様を研ぎ出した際に、妻塗りの漆が地色と模様の境界を縁取るため、模様がより引き立ちます。
8.上げ塗り
赤漆や素黒目漆など仕上げに使う色によって、赤仕上げや黒仕上げ、呂仕上げなどと呼ばれます。刷毛で厚めに塗っていきます。
9.研ぎ
はじめに、凸凹を取るため大まかに研いでいきます。削り出された面を十分に乾かすために、湿度と温度を適切に保つ漆風呂に入れてよく乾燥させてから、さらに模様を削り出します。凹んだ部分は漆を扱き塗り(こきぬり)し、研いでは塗る工程を何度も繰り返します。
10.胴摺り(どうずり)
菜種油で砥の粉を練った油砥の粉で繰り返し磨き上げ、研ぎ跡を磨き取っていきます。磨き終わったら油分が残らないように完全に拭き取ります。
11.呂塗り(呂色磨き)(ろぬり)
最後に、磨き用の呂色漆を塗って仕上げます。呂色漆をつけた炭で少しずつ研いでは拭き込むことを繰り返し、艶を出して完成です。