特徴・産地
浄法寺塗とは?
浄法寺塗(じょうほうじぬり)は、岩手県二戸市浄法寺町周辺で作られている漆器です。
日本で使われている漆(うるし)は98%以上を中国などから輸入しており、国産の漆はわずか2%弱しかありません。浄法寺は国産漆の約60%を生産している国内有数の産地として知られています。
浄法寺塗の特徴は、高品質の浄法寺漆を使って作られていることです。ほとんどのものが黒、本朱(ほんしゅ)、溜色(ためいろ)の無地の単色で、光沢をおさえた仕上がりになっています。
日本・中国・韓国で採れる漆の主成分はウルシオールで、含有量が多いほど上質です。中国産の漆は約60%弱、一般的な国産漆は約65%前後であるのに対し、浄法寺漆は約70~75%が含まれています。国産のなかでも特に上質な浄法寺漆は、金閣寺や中尊寺金色堂など国の重要な文化財の修復にも使われてきました。
浄法寺塗は古くから庶民の生活に浸透してきた漆器です。そのため、普段使いを前提として丈夫で飽きの来ないシンプルなデザインに作られています。
「塗師の仕事は7割までで、あとは使い手が完成させる」と言われているように、使い込むことで磨かれ美しい艶が出てくることが浄法寺塗の魅力であると言えます。
歴史
浄法寺塗は、728年(神亀5年)に行基が聖武天皇の名を受けて開山した「八葉山天台寺(はちようざんてんだいじ)が発祥と言われています。天台寺開山の際に派遣された僧侶たちが、自らの什器(じゅうき)を作るために漆工(しっこう)技術を持ち込んだことが始まりで、やがて僧侶たちが作った漆器を参拝者に供するようになりました。漆器とともに漆塗りの技術も庶民に伝わり、庶民用が普段使いに使用する「御山御器(おやまごき)」として天台寺周辺に広まったと言われています。
江戸時代になると、藩主に献上する金箔を施した優美な「箔碗(はくわん)」が作られるようになります。
明治時代になると箔椀は廃れましたが「御山御器」などの庶民用の漆器はますます需要が高まっていきました。
戦後になると、安価な合成樹脂や輸入漆の普及により浄法寺塗は急速に廃れていきますが、昭和50年になって岩手県工業試験場が地元の漆掻き(うるしかき)職人や塗師(ぬし)とともに浄法寺塗を復活させ、1985年(昭和60年)に国の伝統工芸品の指定を受けました。
制作工程
1.挽物加工(ひきものかこう)
木材は乾燥させる時に、湿度によって反りや収縮、割れなどが生じます。そのため、トチ・ケヤキ・ミズメ・クワトチ・ミズメザクラ・ホオなどの原木の伐採は木の成長が止まった時期に行います。
2.玉切り(たまきり)
原木を漆器の直径に合わせて玉切り(輪切りにすること)します。
3.寸法決め・大割り・小割り(すんぽうどめ・おおわり・こわり)
作る漆器の種類を木目によって決め、でき上がりに近い大きさになるように、大割り(大まかに切る)→小割り(さらに細かく切る)と行っていきます。
4.荒挽(あらひき)
小割りした木地を生木の状態のままろくろで回し、仕上がり寸法より10~20mmほど厚くなるように荒挽(大まかに形を作ること)にして荒型(あらがた)をつくり、そのまま数ヶ月寝かせます。
5.人工乾燥・天然乾燥
荒型は温風乾燥器や除湿乾燥器を使って、含水率が7~8%になるまで2~3週間かけて乾燥させます。その後、空気中の水分と同じくらいの含水率になるまで天然乾燥 します。
6.中挽・仕上挽(なかびき・しあげびき)
2~3日放置しておいた中挽を、材料のひずみを取るために仕上がり寸法より5~10mmほど厚めに削る仕上挽をします。
7.下地加工(したじかこう)
下地加工の前段階として、木地の表面をサンドペーパーで平らにならしてなめらかに磨き、布でキレイに拭き取ります。次になめらかに磨いた木地に生漆(きうるし)をたっぷりと浸み込ませます。
「木固め」の工程は、木地が伸縮して狂うのを防ぐだけでなく、その後の工程で重ね塗りする漆の付き具合を良くするために欠かせない工程です。「木固め」をしっかりと行うことで、丈夫で防水性の高い漆器に仕上がります。
浄法寺塗の下地造りには、「蒔地(まきじ)下地」と「「漆地(うるしじ)下地」の二通りがあります。
「蒔地下地」は、蒔地用に精製した漆を塗り、乾かないうちに地の粉(じのこ)か炭粉(すみこ)を蒔き付けた後に生漆を塗って蒔地固めをします。地の粉は海底などの珪藻土(けいそうど)を焼いて粉にしたもので、炭粉はツバキやホウの炭を粉にしたものです。その後、下塗り(したぬり)、中研ぎ(なかとぎ)、中塗りの工程を行います。
「漆地下地」は「重ね塗り」とも呼ばれる工程で、生漆に砥の粉(とのこ)やベンガラを混ぜたものを塗った後に、研ぎ炭(とぎすみ)や耐水ペーパーなどで研磨します。砥の粉は粘板岩(ねんばんがん)でできた石を砕いた粉で、ベンガラは酸化鉄が主成分の赤色顔料のことです。「漆地下地」は、塗り→研磨の工程を7~8回繰り返して漆だけで下地の厚みを作っていきます。
8.塗漆(うるしぬり)
上塗り用に精製した最高品質の漆を使って、刷毛の跡やゴミ・ホコリなどが付かないように上塗りを行います。
上塗りには「花塗(はなぬり)」と「ろいろ塗」の二種類があります。花塗は仕上げ用の漆を塗った後、そのまま乾燥させる技法で、ろいろ塗は仕上げ用の漆を塗って乾燥させた後に、表面を磨いて光沢を出す技法です。
漆器の色は上塗りに使用する漆の色によって決まり、浄法寺塗では朱か黒の漆がよく使われます。また、溜色(ためいろ)は、仕上げに透漆(すきうるし)を塗ったものです。
代表的な製造元
うるみ工芸
丈夫で使うほどに艶やかに変化する浄法寺塗の器。日常に何気なく漆器を使うことで、心も潤っていく…そんなライフスタイルを提案致します。