特徴・産地
甲州印伝とは?
甲州印伝(こうしゅういんでん)は、山梨県甲府市で作られている革製品の工芸品です。甲州印伝の特徴は鹿革を用いて、漆で模様を付けることです。この技法を使って鞄や財布、小物入れ等様々な製品が作られています。
戦国時代には武具にも利用されていました。革が柔らかく軽く長く使い込むに従って光沢が増し、漆を使うことにより丈夫で長持ちします。
甲州印伝は模様の美しさも魅力の一つです。小桜、菖蒲、とんぼ等が描かれることが多く、自然や四季の美しさを彩ったデザイン性の高さも人気の理由と言えます。熟練の職人技巧が活かされ、藁の煙や松脂(まつやに)で燻(いぶ)して独特の色に着色していく日本で唯一の革工芸品になります。また、一色毎に型紙を変えながら着色する技巧も色鮮やかです。
甲州印伝は戦国武将の武田信玄も武具入れにしていたとされ、長い間甲州で愛され続けている伝統工芸品になります。
歴史
甲州印伝の歴史は長く、江戸時代の頃には産地が特定されていた記録が残されています。
革工芸品の歴史をたどると奈良時代まで遡り、革をなめし、漆で模様を描く方法が外国から伝播して作られました。印伝の名前の由来は1624年(元和10年)から1643年(寛永20年)の江戸時代に外国人が渡来した際に幕府にインド革製品を献上されたことと考えられます。印度が印伝になっていったとも、インド伝来であるからとも諸説様々です。
江戸時代には各地で印伝が作られていたと考えられますが、現在製造されているのは、山梨県の甲州印伝のみとなります。明治時代には、信玄袋や巾着袋が内国勧業博覧会で勲章を得て、広く山梨県の工芸品として認知されるに至りました。大正期にはハンドバッグ等も作られ1987年(昭和62年)の昭和期に経済産業大臣指定伝統的工芸品に認定されました。
制作工程
1.染色
鹿革の表面をヤスリ等で滑らかに整え、通気性を高くし、漆ののりが良くなるように加工します。洗濯機のような大きな染色機械で100枚程度の白い鹿革を染色していく方法です。一枚一枚性質の違う鹿革で自然な風合いを出し、革の芯まで染め上げます。
その後、白い鹿革を鎖で縛って細かい毛を取り除いていきます。模様によって、麻糸を巻き付けたり、事前に糊付けする行程です。鹿革をタイコ(筒)に張り付け藁を燻(いぶ)して染色していきます。
2.裁断
「漆付け」、「更紗(さらさ)技法」では、仮裁断となり、「粗断ち」と言われる方法で大まかな形に裁断していきます。品毎に異なる刃型を用いて余り革が出ないように丁寧に裁断していきます。角が合わないことがありますが、本物の証とされています。「薫べ技法(ふすべぎほう)」では、本裁断の行程です。
3.柄付け(がらづけ)
「漆置き」や「更紗(さらさ)技法」では、柄付けをしていきます。「漆置き」は革に手彫りの和紙でできた型紙を置き、漆を塗ったへらで均等に塗って行く技法です。「更紗技法」は、手彫りされた型紙を一色ずつ変えていくことで色鮮やかに柄付けしていきます。漆は温度や湿度等の季節要素により、硬さを調節して均一に伸ばせるような技術が必要です。おおよそ3日~7日で綺麗な印伝革になります。
「薫べ技法(ふすべぎほう)」では、鹿革を鎖で縛って細かい毛を取り除いていきます。模様によって、麻糸を巻き付けたり、事前に糊付けする行程です。鹿革をタイコ(筒)に張り付け藁を燻して染色していきます。仕上げに松脂で4~5時間燻すことにより、黄褐色から茶色へと染色されます。糸や糊を取り除いてから絵付けした鹿革を温度を一定に保った室内で乾燥させます。最後に風通しの良い室で数日間陰干しを行います。
4.縫製・仕上げ
漆付け、更紗技法では、絵付けした印伝革を本裁断し、絵付けした印伝革を縫っていき製品を作成します。縫い代を少なくするために革漉き(かわすき)を行い、漆の絵付けで表面にでこぼこがあるため、丁寧に手縫いで縫製する方法です。ハンマーで縫い目の折り返しを整えます。裏に当て革をつけて、口金やファスナー等のパーツを付けていきます。
検品を行い、厳しいチェックを受けた本物の印伝にのみ「印伝」のシールが貼られて出荷します。
現在では、スマホケース等生活で普段使う用品も作られており、幅広い年代層の方から愛されています。