特徴・産地
房州うちわとは?
房州うちわは(ぼうしゅううちわ)は、千葉県館山市・南房総市周辺で作られているうちわです。「丸亀うちわ」(香川県丸亀市)と「京うちわ」(京都府京都市)とともに日本三大うちわの一つに数えられています。
房州うちわの特徴は、女竹(おんなだけ)を使用した「丸柄(まるえ)」を使用していることです。丸亀うちわは大きな竹(男竹)を平たく削った「男竹平柄(おとこだけひらえ)」、京うちわはうちわ面に後から柄を差し込む「挿柄(さしえ)」を使用しています。
丸柄とは、太さ1.5cmほどの女竹を64等分に割いて骨を作り、その骨を糸で交互に編んで扇型に仕上げたもので、半円の「窓」と呼ばれる部分に美しい格子模様が現れます。
女竹とは、細い篠竹(しのだけ)のことで、房州うちわは房州地方の山に自生しているものを原料としており、1年のうちで竹が最も乾燥している10月から1月の寒い季節に採取して利用します。
房州うちわの絵柄は、昔から日本の伝統的な浮世絵や美人画などが描かれていました。しかし、最近では、民芸調の絵柄や、浴衣(ゆかた)や万祝(まいわい)の生地を貼ったものも増えています。
歴史
関東地方でうちわの生産が始まったのは江戸時代の天明年間(1781~1788年)ことです。房州はうちわの原料となる良質な女竹の産地でしたが、江戸時代にはまだうちわの生産は行われていませんでした。
房州でうちわの生産が始まった時期には2つの説があります。1つは1911年(明治44年)に千葉県が発行した「地方資料小鑑」によると、1877年(明治10年)に那古(なこ)町(現在の館山市那古)で始めたとされた説。もう1つは、1918年(大正7年)に発行された「房総町村と人物」によると、1884年(明治17年)に那古町の岩城惣五郎(いわきそうごろう)が東京から職人を雇ってうちわ骨の生産を始めたとされる説です。
明治から大正時代にかけては、房州でうちわ骨を生産し、東京で「江戸うちわ」に仕上げられていました。1921年(大正10年)に東京日本橋のうちわ問屋の横山寅吉が、女竹を出荷していた船形(ふなかた)に工場を建てて、うちわ骨から完成品までの一貫生産を試みたのが、房州うちわの始まりです。
その後、1923年(大正12年)の関東大震災で東京のうちわ工場が壊滅的な被害を受けたため、船形で本格的に生産されるようになりました。
制作工程
1.竹の切り出し(うちわ屋)
原料となる女竹は毎年10月ごろから竹の選別が始まります。中身が締まっていて虫がついておらず、指の太さくらいの女竹を伐採し、必要な長さに切断します。うちわ作りには太さが一定の竹が必要なので、1本の竹から取れるのはわずか2~3本ほどしかありません。
2.皮むき(うちわ屋)
女竹の皮をはがし、節の周囲の芽などを削り取ります。
3.磨き(うちわ屋)
皮をはいだ竹を籾殻(もみがら)とともに磨き機に入れて水洗いした後、表面を磨きます。磨き終わったら籾殻を落として乾燥させます。
4.水付け(割き屋)
竹に切り目を8つ入れ、切り目を下にして一晩水につけて柔らかくします。
5.割竹(さきたけ)(割き屋)
節の少し上の部分に糸を巻きつけて固定し、糸の位置まで切り目に沿って竹を8つに割きます。その後、余分な身を削ぎ(そぎ)落としながら16分割、32分割、64分割にしていきます。
6.もみ(うちわ屋)
分割した竹を3~4本まとめて、波型のついた石やコンクリートブロックなどの上で強く転がします。こうすることで、分割した竹の部分の角がなめらかになります。
7.穴あけ(うちわ屋)
節の下の部分に、竹が割れないようにドリルで慎重に「弓」と呼ばれる編棒を通す穴をあけます。
8.編竹(あみだけ)(編み屋)
分割した部分より10cmくらい上のあたりに糸を結びつけ、分割した竹が一直線になるように骨と糸を交互に編んでいきます。1本ずつ編む方法と2本ずつ編む方法がありますが、1本編みの方が美しく仕上がり高価なうちわになります。
9.柄詰め(えづめ)(うちわ屋)
持ち手の長さに合わせて柄を切り、柄の中の空洞になっている部分に細い柳の枝を詰めていきます。
10.弓削(すげ)(弓削屋)
真竹(まだけ)を細く割いて、両端を細く削いで形を整えて弓を作り、「網竹」をした竹に取り付けます。
11.下窓(したまど)(下窓屋)
竹の間隔が均等になるように扇型に広げ、「網竹」で編んだ糸を弓の端に仮結びをします。
12.窓作り(下窓屋)
糸を引っ張って穴に通した弓を曲げ、たるみがないように糸を引いて整えしっかりと結び直します。糸を固定した後、編んだ竹の形を再度整えて窓を作ります。
13.目拾い(めひろい)(うちわ屋)
糸の少し上の骨の間に細い竹を差し込み、逆側に広がった骨を平らにして形を整えます。
14.穂刈り(ほがり)(うちわ屋)
「押切(おしぎり)」という道具を使って、うちわの形になるように骨の余分な部分を切っていきます。
15.焼き(うちわ屋)
骨がまっすぐになるように中心部をコンロや熱した金属の台などで加熱して、形を定着させます。骨組みが安定したら竹ヒゴを外します。ここまででうちわ骨が完成します。
16.貼り(貼り屋)
あらかじめうちわの形に切った紙や布を骨に貼る作業です。刷毛(はけ)で骨全体に糊を塗って、表の面をはり、骨の間隔が均一になるように竹ヘラで形を整えます。その後、裏面を貼り付けます。
17.断裁(だんさい)(うちわ屋)
押切か断裁機を使用して、うちわの形に合わせて骨の端を切りそろえます。
18.へり付け(縁屋)
断裁した部分が壊れたり裂けたりしないように、うちわのへりに細長く切った和紙を弓と骨の間に貼り付けます。
19.下塗り(したぬり)(うちわ屋)
柄尻(えじり)の隙間に、膠(にかわ)と「胡粉(ごふん)」という貝の粉を溶いた液を塗り、柄尻の先を丸く盛り上げます。
20.上塗り(うちわ屋)
下塗りが乾いたら、その上に漆(うるし)や顔料で柄尻に色を付けます。
21.仕上げ(うちわ屋)
うちわの紙を貼った部分をローラーに通して、紙や布に骨の筋が浮き出るように調整して仕上げます。
22.完成
細分化された工程を経て房州うちわが完成します。