「組みひも」文化世界につなぐ 染織家・所鳳弘さんがドイツ語専門書

ドイツ語の新書「KUMIHIMO」を手にする所鳳弘さん=大垣市御殿町

半世紀近くにわたり毎年欧州を訪れて日本伝統の工芸品「組みひも」を教えている染織家所鳳弘さん(79)=岐阜県大垣市御殿町=が、ドイツ語の専門書「KUMIHIMO」(A4判、107ページ)をケルン市美術館教育部から出版した。長年の取り組みにより、「KUMIHIMO」は今や、欧州各国で通じる”共通語”という。本書では、かつて「一子相伝」「門外不出」とされた特殊な組み方も含む58種類を紹介しており、所さんは「日本の伝統文化を未来へ受け継ぐバトンとなれば」と話す。

所さんは京都市生まれ。1968年、良質な水に引かれて大垣市で工房を開き、主に伊吹山周辺に足を運んで300種類以上の植物を採取。約1100色を染め出し、多彩な組みひもを制作してきた。

海外での活動は72年から。現地の大学や美術館、在外公館の依頼で、学生から難民の子どもたちまで草木染や組みひもを指導しており、一年の4分の1は欧州各国を巡る生活を40年以上続ける。これまでの指導は欧州を中心に中東やアフリカ、米国にもわたる28カ国、4万人近くに上り、日本文化の普及に貢献したとして今年5月に旭日単光章を受章した。

本書では、8束の糸を組む「八津組」、幾重にも連なる波を表した「笹波」といった基本から、格式が高く白色の糸で成す「千鳥」、東大寺の収蔵品に使われたとされる「東大寺」など限られた人たちで受け継がれてきた組み方まで、図解などをしながら丁寧に解説。完成見本や表紙の写真は岐阜新聞の元カメラマン安藤茂喜さんが撮影した。

組みひもや草木染に関する本は7冊目となるが、ドイツ語は初めて。今年はドイツ・ケルンが40周年、オーストリア・ウィーンが30周年などドイツ語圏での活動が節目を迎えたことから出版に至った。

長年の活動の中で、ドイツを中心に10人以上の組みひも作家が誕生。作家が宝石や高級バッグの各ブランドとタイアップした斬新な商品も発表され、「組みひもは、縦糸と横糸が直角に交差する織りに比べ、表現できることの多彩さが評価されている」と分析する。

9月にはケルンの門下生が中心となり「Network KUMIHIMO in Europe」を立ち上げた。組みひもの文化継承や普及に取り組む団体で、登録者は約700人に上る。

所さんは「私がしてきた仕事を受け継いでくれる人が育った」と喜ぶが、「最初はコンクリートに種をまいているようだった。日本文化を忠実に伝えようとしたが、現代の息吹を吹き込んで次代につなぐことこそ使命と気が付いた」と当時を振り返る。

「らせんを描くように、時代に合わせて進化することで未来へつながっていく。それが伝統なのでは」。秘伝といわれた組み方も示した本書を手に語る。

【組みひも】 丸台など専用の道具を使い、草木染を施した絹糸など3束以上を斜めに組み合わせて作るひも。奈良時代に大陸から高度な技術が伝わったとされる。組み方は300種類以上あり、丈夫で伸縮性があることから帯締めなどに利用される。2016年公開の飛騨市を舞台のモデルにした大ヒットアニメ映画「君の名は。」では、ヒロインが髪留めとして身に付けるなど重要なアイテムとして位置付けられ、国内外で注目された。

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