プロ野球楽天イーグルスは2020年のシーズンから、本拠地・仙台市に伝わる漆塗りの技法「玉虫塗(たまむしぬり)」を使ったヘルメットを採用する。丈夫で美しく生まれ変わったヘルメットには開発に携わった多くの人たちの思いも詰まっている。
濃い赤色の新しいヘルメットは、角度によって光沢の模様が変わる。手に持ってみると、表面はすべすべとしていて、見た目より軽い。選手一人一人の頭の形に合わせて、特注した下地に、東北工芸製作所(同市青葉区)の職人が漆や染料を塗り重ねて仕上げた。
玉虫塗は、国策で仙台に設置された国立工芸指導所が、1930年代に輸出目的で開発したとされる。
漆の間に塗り込んだ銀粉が引き出す、独特のあざやかさが海外でも人気を呼び、県を代表する工芸として定着した。現在は東北工芸製作所が、その技術を引き継いでいる。
楽天から製作所に「地域の伝統をとり入れたい」と打診があり、昨夏にヘルメットの製作が決まった。玉虫塗の定番の赤色が、楽天のイメージカラーのクリムゾンレッドと似ているという縁もあったという。
ただ、漆塗りは傷つきやすい性質があり、ヘルメットへの使用に耐えられるかという問題があった。
そこで製作所は、食洗機でも洗える漆器をつくるために開発した新技術を、ヘルメットにも応用して使うことにした。
産業技術総合研究所東北センター(同市宮城野区)と共同開発した「粘土含有ナノコンポジット保護層」だ。樹脂に特殊な透明の粘土を混ぜたものを工程の最後にスプレーで塗布することで耐久性が高まるという。
試験の結果、2Hの鉛筆でひっかいても傷がつかず、5カ月間太陽光にあてても色があせなかった。センター研究員の蛯名武雄さん(55)は「見る工芸から、スポーツの動きとともに躍動する工芸になった。玉虫塗が多くの人に注目されることになれば」と期待する。
試行錯誤を重ね、昨年11月から本格的な塗りの作業を開始、今年1月に約250個を納品した。
製作所常務の佐浦みどりさん(50)は、ヘルメットには「多くの人の思いがこもっている。東北で歴史をつくっていこうとしている楽天に、玉虫塗が少しでも力になれれば」と話している。