江戸時代から高野山麓で受け継がれる伝統工芸「紀州高野組子細工」を後世に伝える映像作品が完成した。3月3日㊋から和歌山市本町のフォルテワジマ2階で公開する。唯一の継承者で、橋本市に住む池田秀峯さん(73)の工房が火事で焼け、危機にあるこの工芸を和歌山市のデザイナー、岡記生さん(60)らが支援し、映像で未来につないだ。
「紀州高野組子細工」は、マツやモミなど高野六木を細かくして素材とし、三角や菱形で様々な模様に組み上げる。池田さんは建具を作りながら、技を受け継ぎ、和歌山の風物を組子で表現。天皇陛下を迎えるため鯨の姿を編み込んだついたて「勇泳」などを残した。しかし、2016年5月、池田さんの工房が火事で全焼。道具や素材、作品も焼け、今なお技術の継承、再興のめどは立たない。
岡さんは、かねてから池田さんの作品にひかれ、自らのデザインに活用していた。危機に陥った伝統を前に映像で後世に伝えようと発案。知人で、第一線で活躍する映像作家の山形一也さんに依頼し、昨年末にロケを行った。点在する作品を追い、イメージビデオ風に収めたほか、岡さんが保存していた組子細工の木枠から、池田さんが制作工程を再現。短いながら魅力を伝えうる作品に仕上がった。
岡さんは「火事ですべてなくなり、何も残らなくなる。ビデオや文字データで残すという今できることを行いました」。池田さんは「感謝です。継承は半分あきらめていたが、できる範囲で自分の経験を伝承したいと再び思うようになりました。多くの人に見て頂けると自分の勇気になる」と話している。
展示会では常時映像を流すほか、作品数点、組子をモチーフにした岡さんのポスターなどを並べる。8日㊐まで。午前11時〜午後4時。無料。リ・ビーンズの岡さん(073・453・8900)。