日本唯一のセルロイド人形職人~作り続ける「ミーコ」の魅力とは

童謡「青い眼の人形」の歌詞にも出て来る「セルロイド」。いまはほとんど見掛けなくなったセルロイド人形を、日本でたった1人、いまも作り続けている職人さんがいます。背景には、お父さんから受け継いだ熱い思いがありました。きょうは「日本唯一のセルロイド職人さん」にまつわるグッとストーリーです。

「平井玩具製作所」平井英一さん 手にしているのは成形後のセルロイド

東京・足立区にある「平井玩具製作所」。工房で1人、セルロイド人形を黙々と作り続けている職人さんがいます。平井英一さん・72歳。

「セルロイド人形は手に持つと驚くほど軽くて、手触りもよく独特の温もりがあるんです。はかなさも感じますし、プラスチックの人形には出せない独特の味があるんですね」

完成後のミーコ(衣裳は別売、または購入者の自作で)

「平井玩具製作所」は戦後間もない昭和22年、英一さんのお父さん・才一さんが、おじいさんとともに東京・葛飾区で創業。その頃、セルロイドのおもちゃ製造は葛飾区の地場産業で、町工場がいくつも軒を連ねていました。国内だけでなくアメリカにも大量におもちゃを輸出。当時、日本は世界一のセルロイド玩具生産国で、下町の町工場は外貨獲得に大きく貢献したのです。

ところが……昭和29年、セルロイドが燃えやすいことを理由にアメリカが輸入制限を始め、セルロイド玩具の生産は一気に下火に。昭和30年代、平井玩具製作所は工場を現在の足立区に移転。主力商品をセルロイドのおもちゃから塩化ビニール製のお面にシフトして行きましたが、父・才一さんは昭和34年、「ミーコ人形」を新たに製作。塩化ビニール製の人形が主流になっても、しばらくはセルロイド人形作りをやめようとしませんでした。

作業中の英一さん

英一さんは言います。「いくら採算が合わなくて注文が少なくても、作り続けたのは職人の意地だったんですね」

セルロイドのシートを人形焼きのような金型の間に挟み込み、熱を加えてプレス機で圧着。人形の形を作り、あとは髪と目などに色をつけ、ゴムを使って手足を取り付ければ完成です。

実は英一さんは、熊手などセルロイド製の「縁起物」の作り方はマスターしていましたが、自分が子どもの頃、生産が下火になったセルロイド人形の作り方はちゃんと教わっておらず、才一さんが作るのをやめた時点でセルロイド人形の生産はストップしていました。ところがある日、おもちゃのコレクターとして有名な北原照久さんが、「セルロイドで昔のキャラクター人形を再現してもらえませんか?」と依頼して来たのです。

父・才一さんが保存していたミーコの金型

才一さんが久々に作ってみたところ、塩化ビニールでは出せない、独特の味わいがある人形が完成。これをきっかけに、才一さんは英一さんにこう告げました。「ミーコの金型はまだ残してある。作り方を教えるから、お前もセルロイド人形を作ってみないか?」

父の手ほどきのもと、初めて作ったセルロイド人形の味わい深さに英一さんはすっかり魅了され、平成14年に才一さんが亡くなった後も、父が遺した金型を使って「ミーコ人形」を作り続けました。

購入者オリジナルの衣裳を着たミーコ人形

「はじめは北原さんのところで販売してもらったんですが、なかなか売れなくてね……。でも北原さんが、『せっかくいいものを作っているのだからネットで販売してみては?』と提案してくださって。50の手習いでホームページを立ち上げることにしたんです」

独学でパソコン操作とホームページ作成を学び、作ったサイトの名前が「セルロイド・ドリーム」。

ミーコ人形は全国の購入者から送られて来るのだそう

ここにミーコ人形や、同じく金型が残っていたキューピー人形の写真を掲載。販売を開始したところ口コミで評判が拡がり、全国から注文が入るようになり、そのうち購入したミーコに自分で作ったオリジナルの衣裳を着せて、英一さんにプレゼントしてくれる人たちも現れました。いま英一さんの作業場には、全国から送られて来た様々なコスチュームのミーコ人形が、ガラスケースのなかに所狭しと並んでいます。英一さんは言います。

「親父が亡くなる前に、セルロイド人形の作り方を教えてくれたことは本当に感謝しています。お客さんたちの喜ぶ顔を見たら、力が続く限りミーコを作り続けて行きたいですね」

「ドールワールドフェスティバル 2019」
日時:
■6月15日(土)12:00〜17:00
■6月16日(日)10:00〜16:00
場所:浅草・都立産業貿易センター 台東館4Fにて開催
(東京メトロ銀座線・浅草駅 7番出口から徒歩5分)
入場料:無料

※平井英一さんがセルロイド人形を多数出展。人形作りが体験できるワークショップも同時開催します。

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