日本有数の和紙産地として知られる福井県越前市。この地で和紙職人の傍ら、和紙の原料となるガンピやトロロアオイの栽培に携わるのが柳瀬翔さん(26)だ。今後入手が困難になると懸念される手すき和紙には欠かせない粘材のトロロアオイの栽培に、5月から着手。和紙需要が減る中、新たな可能性を模索するなど“和紙の里”を守るべく奮闘中だ。
同市出身。両親は共に越前和紙の職人。「幼少期から家業を手伝っていて、和紙作りは生活の一部」と振り返る。2人の兄が実家を離れたことで「家業を途絶えさせてはならない」と危機感を抱き20歳で継いだ。
和紙の利用は減っている。福井県和紙工業協同組合によると、1989年の和紙全体の売り上げは約93億円だったが2018年12月末は約27億円と、30年前の3分の1以下だ。
「新たな活路を見いだせなければ、越前和紙の未来はない」。伝統の和紙に現代のシンプルなデザインを組み合わせた和紙製の箱を父晴夫さん(63)と共に製造する。河原に転がる石のような形が特徴で、東京・銀座の雑貨店などで販売。高いものでは1個1万円以上する高級品だが、2年間で500個以上売り上げる人気商品となった。
原料を和紙産地で確保しようと、同組合が中心となり、16年からガンピの栽培を本格化。今年2月には、国内のトロロアオイの約9割を栽培する茨城県の生産団体から「高齢化で今後栽培が困難になる」との通知を受け、4月に同組合はトロロアオイの生産部会を設立した。代用品は存在するが、柳瀬さんは「それを使えば品質低下を招く可能性もあり、ブランドに傷を付けてしまう」と心配する。
トロロアオイは約10アールで栽培。柳瀬さんは畑に足しげく通い、成長の妨げになる雑草を取るなど農作業に精を出す。7月には茨城県の産地に出向き栽培ノウハウを学ぶ予定。今秋に約1トンの収穫を見込む。
1500年以上続く伝統を踏襲しながら、若手職人と和紙で美術的要素を盛り込んだ作品を作り企画展を開くなど、和紙の可能性を模索する柳瀬さん。「いずれは越前和紙をユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産登録につなげ、地域に活力を与えたい」と夢を膨らませる。(前田大介)