伝統工芸のまち・高岡で鋳物づくり体験

伝統工芸品の魅力を発信する施設でよくあるのが、初心者の体験コーナーだ。知識や経験がなくても、ちょっとした職人気分を味わえるのが醍醐味(だいごみ)。銅器や漆器など加賀藩ゆかりの工芸の町、富山県高岡市にもそんな場所がある。

それは市中心部の御旅屋(おたや)地区に建つ商業施設「御旅屋セリオ」の2階にある。高岡地域地場産業センター、通称「ZIBA(ジーバ)」。建物の老朽化や利便性向上のため、旧施設から南にあるこの場所に移転し、昨年10月にオープンした。銅器や漆器などの伝統工芸品を展示販売し、その魅力を発信すると共に、来場者向けに一度に最大40人が参加できる制作体験も有料で開く。

今月上旬に訪れた時は、鋳物作りの伝統的な製法「鋳造」でぐい飲みを作る体験をさせてもらった。

約100平方メートルの工房には机が10台並び、型枠などの道具一式がそろう。原料の錫(すず)を溶かす熔解(ようかい)炉などもあり、本格的な鋳物作りをゆったりとしたスペースで楽しめる。

制作体験は、スタッフの斎藤翔太さん(35)が逐一指導してくれた。

上下の型枠の中に砂を押し込み、ぐい飲みの形状の空洞と、錫の注入口などを確保した上で砂を固めて、上下を重ねる。その後、注入口に280度の溶けた錫を注ぐのだが、「早く入れないと固まっちゃいますよ!」と斎藤さん。アドバイス通り、スピードを意識して流し込むと、5分ほどで錫は固まった。型からぐい飲みを取り出して、紙やすりなどで磨く。光沢が出て、完成した。

制作にかかった時間は2時間余り。サポートを受けながら作業できるので、思ったよりも難しくない。楽しくて熱中し、あっという間に時間が過ぎた。

「無事にできあがってよかった。晩酌の楽しみが増えましたね」

高岡銅器の歴史は古い。市によると、約400年前の慶長年間に、加賀藩2代藩主の前田利長が高岡城を築く際に7人の鋳物師を呼び寄せたのが始まりとされる。1975年には国の伝統的工芸品の指定を受けた。2018年の販売額は100億円を超える。

ZIBA内には、高岡銅器のほかに高岡漆器や越中和紙、井波彫刻など県内の伝統工芸品が並び、実際に手にとって購入できる。体験で作ったものにはない洗練さや深みがある。

ZIBAで働くスタッフも、そんな伝統工芸の世界に魅了された人たちだ。

高岡市出身の斎藤さんは、中学生のころ、美術館で漆器の美しさに魅了され、伝統工芸の道に足を踏み入れた。高岡工芸高、富山大芸術文化学部で漆を学んだが、職人の世界は厳しく、一人前になるにはかなりの時間がかかると知った。

進路に悩んでいた大学4年のとき、指導を受けていた教官に勧められたのが、現在のZIBAだった。09年に就職。「高岡の伝統工芸の魅力をたくさんの人に知ってもらえる。職人ではないけれど、今はこの仕事が楽しい」と笑う。

伝統工芸を巡っては人手不足や高齢化などの問題が深刻だ。

市によると、高岡の銅器・鉄器に携わる人の数は、85年の約2400人から18年には4分の1近い約620人まで減少した。市内にあるデザイン・工芸センターでは、職人が伝統工芸の魅力を直接伝える講座を開くなどして、後継者の育成につなげようとしているという。

高岡では、ZIBAや指定の工房で作ったぐい飲みとそこでもらえるクーポン券(市観光協会発行)を市内の指定の飲食店に差し出すと、日本酒が1杯サービスで飲める取り組みを展開している。

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案内

富山県高岡市御旅屋町(御旅屋セリオ2階)。午前10時~午後6時。水曜と年末年始は休館。鋳物作り体験(税込み2500円)は2人から、漆器の絵付け体験(税込み3千円~)は4人からそれぞれ受け付ける。体験はいずれも午前10時半と午後2時で事前申し込みが必要。富山県内の伝統工芸品も販売している。体験の申し込み、問い合わせは高岡地域地場産業センター(0766・25・8283)。

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