岡山市のイオンモール岡山やビックカメラ岡山駅前店、岡山ドームなど手がけた作品は数知れず。高度なはめ込みガラス加工技術が認められ、5月に黄綬褒章を受章した。「ガラスに関わる仕事をしたい子どもが少しでも増えてほしい。後輩たちの励みになればうれしい」と語る。
透明感や清潔感のある建築物を生み出すスペシャリストとして知られる。重さ1トンを超える巨大ガラスからミリ単位のものまで扱う緻密(ちみつ)さで、2016年には厚生労働省の「現代の名工」にも選ばれた。
92年、20歳で解体工から岡山市南区浜野2丁目のガラス販売会社「綾部ガラス」(現ADF・アヤベ)に転職。しかし、最初は配達業務ばかり。単調な仕事に思え、配達中に割れるトラブルもあって、半年経った頃には「辞めようかな」と考えたという。
そんなとき、会社がガラス施工も手がけることになり、当時県内では施工技術の第一人者といわれた大西俊博さん(65)が、入社することになった。技術者の募集に対し、何の経験もなかったが迷わず手を上げた。洋服の仕立職人だった両親の背中を見て育ち、「職人の高度な技術を学びたい」という思いをいつも持っていたからだ。
大西さんに直接教えは請わず、カッターを使う際の足の向き、体の使い方、手の角度など全てまねをした。自宅では、練習のため台所の食器棚、テレビ台などのガラスを外し、パス、パスと切りまくった。「親にすごく怒られたけど」
04年に開館した香川県直島町の「地中美術館」に関わったことが転機となった。安藤忠雄氏の設計。ガラスと建物の間にシリコーン材を流す作業で、シリコーン材のわずかな盛り上がりにも難色を示した設計事務所のこだわりに応えるため、独自の道具などで仕上げた。建築物は美術品。「できない」とは言わない――。そんな信念が芽生えた。
09年には全国から代表12人が集い、技を競った「技能グランプリ」(厚労省など主催)のガラス施工部門で厚労大臣賞。環太平洋大の新校舎「ディスカバリー」(岡山市東区瀬戸町観音寺)では、再び安藤氏の設計事務所と渡り合い、水面にガラスが映る独特のデザインの校舎を今春完成させた。
いま大西さんは業務部長で、自身は直下の課長。部下を束ねる立場となったが「自分は今も大西さんを追いかけている」。その大西さんは「自慢の仲間」と目を細める。次の目標は後輩たちの中から技能グランプリの金メダリストを出すことだ。(高橋孝二)
かたやま・まさひろ 1971年、岡山市北区生まれ。趣味は、野球や釣り、スノーボードなど多く、昨年までは草野球チームに所属しつつ、女子ソフトボールチームの監督として指導していた。釣りは、船釣りでブリやカンパチなど大物を狙うという。