透き通った音色を響かせる仏具「おりん」。「チーン」と安らぎを与える音色を街に響かせようと、おりんを手がける京都の鳴り物職人らが自転車につけるベルを開発した。
伝統工芸士の白井克明さん(61)は2011年、京都の祇園祭で使う鉦(かね)を作るため、古い鉦の金属成分を分析しようと京都市産業技術研究所を訪ねた。
そこで「おりんを作っています」と自己紹介すると、研究所の技術者、門野純一郎さん(59)から「おりんで自転車のベルができませんか」と聞かれた。門野さんは自転車好き。仏具のように音がよく、遠くまで長く響きわたるベルが欲しかった。
白井さんは、鳴り物の話をすると、打ち返されるこの手の話には慣れていた。工房では以前、「目覚まし時計のベルを作って」と言われることもあった。
このまま流れると思っていたら、門野さんがおりんを箱につけた「試作品」を作り、熱意に押されて開発することに。ただ、この試作品はよく鳴らなかった。白井さんは「経験からですが、真横から90度にあてるよりも、少し斜めにあてる方がよく響くんです」と話す。
不快にさせないベル響かせたい
そこで構造を直しつつ、デザインを決めた。座布団を付けた案もあったが、頭にネジが出ないデザインを採用。りん棒と同じ黒檀(こくたん)を使ったハンマーで鳴らすことに決めた。
理想は自転車に取り付けたときに、自転車のフレーム全体でベルの音を増幅させるように作ることだ。今も一つずつ違うおりんを工程ごとに、鳴らして、楽しみつつ確かめている。
白井さんは「澄んだ音を響かせて、自転車が来たと伝わる。そんな不快にさせない自転車ベルを、街に響かせたい」と話している。
白井さんが作る「白井ベル」は受注生産。3万円と5万円の二つの種類があり、彫金と着色で別途費用がかかる。問い合わせはりんよ工房(075・691・7479)。(田中誠士)