仕事みてある記 伝統産業を担い、技術つなぐ

「伝統工芸士を目指したい」と雲州そろばん作りに研さんを積む山下晃弘さん=島根県奥出雲町下横田

雲州そろばん職人
山下 晃弘さん(島根県奥出雲町下横田)

島根県奥出雲町は、兵庫県小野市とともに今では国内に2カ所しかないそろばんの産地です。中でも平成の大合併前の旧横田町で作られるそろばんは約180年の歴史があり、「雲州そろばん」として国の伝統的工芸品に指定されています。奥出雲町下横田の雲州そろばん協業組合で働く山下晃弘さん(46)は「伝統産業の担い手になりたい」と、5年前に広島市から移住。そろばん作りに打ち込んでいます。

そろばんは、今では電卓やパソコンに押され使う人も少なくなっていますが、計算力だけでなく、集中力の養成などに効果があるとして注目されています。

雲州そろばんも、全国の珠算塾などから注文があり、2018年度の生産量、出荷額は概算で2万5千丁、1億2千万円といわれています。

そろばんには、玉がパチ、パチと小気味よい音でなめらかに動き、計算ミスがないよう、はじき返りが少なくピタッと止まることが求められます。

雲州そろばん作りは木製の枠や玉、竹の軸作りから組み立て、仕上げまで187の工程があり、多くが手作業。軸をはめ込む枠の上下の穴の位置や深さが少しでも違うとゆがみを生じ製品にならないため、精巧さが求められます。

山下さんは広島の小売業界で接客の仕事をしていましたが、「手に技術を持ちたい」との希望もありインターネットで仕事探し。同協業組合が職人体験の参加者を募集しているのを知り応募。4時間のそろばん作りを体験し「黙々とやるモノ作りが自分に合っている」と感じ、転職しました。

組合に入って4年5カ月。仕事は仕上げからスタートし、磨き、塗装などの技術を覚えてきました。「そろばん作りは奥が深いと思う毎日です」

奥出雲町では毎年8月、珠算競技大会が開かれます。山下さんは「参加者が自分たちの作ったそろばんを使う姿を見た時に喜びを感じる」と話します。

そして、「伝統工芸をなくすのはもったいない。技術をつなげていければ」と願い、将来は「伝統工芸士の資格を取り、自分も一から全部手作りのそろばんを作れるようになりたい」と意欲を燃やしています。(土谷康夫)

★メッセージ
そろばん作りに若い後継者がいなくて、高齢化していると聞き、「助けになれば意味のある人生になる」と思い、この道に入りました。社会には自分たちの知らない仕事がたくさんあります。例えば、人を助ける生き方を考えているのなら、医師だけでなく歯科医師、看護師、消防士などいろいろあります。将来、職業を選ぶとき、まず「自分がどういう生き方をしたいか」ということが大事だと思います。

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