群馬)工房利八 名匠の技、最新技術で再現

三次元レーザー加工技術でつくった「超立体桐箱」を手にする海老沼恵也社長=2019年8月7日午後3時42分、群馬県太田市新田嘉祢町、長田寿夫撮影

江戸小紋の繊細な彫りと群青や朱色の渋い塗りが和の趣を醸す。練達の職人の手仕事にも見える桐(きり)の小箱。実は最新のレーザー加工技術が使われている。

群馬県太田市の精密板金加工会社「ワークステーション」のブランド「工房利八(りはち)」の「超立体桐(きり)箱」。天板の内側に葛飾北斎の浮世絵が彫ってある。木目の凹凸が浮き出ていて、版木のような風合いがある。

箱の角で模様が一切ずれないのも特徴だ。レーザー加工技術は焦点距離と照射角度を一定に保つ必要があり、平面以外の立体や球体への高精度な加工は不可能とされてきた。同社が群馬県立産業技術センターと共同開発した3次元レーザー加工機がそれを可能にした。

ベースの技術はパチンコ台の製作で培われた。受注が細ると、海老沼恵也社長(66)は生き残りをかけて工房を設立した。昔の名匠の技を最新技術で再生する――。工房の理念だ。

東京の展示会に出すと、「面白い」「こんなの見たことない」と空間デザイナーらの間で評判に。「もっと驚かせたい」と、どんどんのめり込んでいった。

2016年には日本文化を海外に売り込む国の戦略「クールジャパン」にも商品が選ばれた。パリのショールームに陳列すると、精巧な仕事ぶりが現地で称賛された。半年の約束だった展示は、延長を重ねて昨春まで1年半に及んだ。

工房の稼ぎは会社全体の1割にも満たない。外国人観光客に売り込めば、倍以上にする自信はあるが、土産物にする気はない。工房の「版木絵」には奥行きがある。独特の遠近感は4通りの出力で彫ることで生まれる。工程を飛ばすと、絵は平板になってしまう。

「いまはあえて売り上げにはこだわらない。お客のための一品を手間暇かけてつくっていきたい」(長田寿夫)

「オンリーワンの技術を持ちたい」と思っていた。下請けでなく、消費者と直接つながるメーカーになりたいと。

亡き父が興した金属塗装会社の3代目だった。07年にワークステーションを創設。会社が手狭になる度に引っ越し、現社屋は3カ所目となる。精密板金加工とパチンコ台の加飾部品製造が柱だが、パチンコ市場の縮小を受け、独自の加飾技術を応用した新分野を開拓しようと5年前、工房利八を立ち上げた。

「名匠の工芸品を10分の1の値段で」がモットー。素材にはとことんこだわる。桐(きり)はアク抜きに1年以上かけた国産材。漂白剤でごまかした外国産はいくら安くても使わない。「商機は他社が見向きもしない市場に」が持論。「時代は量産品でなく、一点物を求めている」。そう考え、もうからない仕事に精を出す。

利八は父の名からとった。画家志望だった父は家族を養うために画業を断念した。気がつくと、自分も絵画と深く関わるようになっていた。「父が見守っているのか。不思議な巡り合わせですね」

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