若手職人が新たな境地へ、重鎮たちが後押しする寄木細工発祥の地

8年間の修行を経て独立した清水さん。自身の工房「るちゑ」にて。右手前にあるのが寄木で作られた「ちりとり」

職人の高齢化が進む伝統的工芸品の世界だが、若い感性で新たなものづくりに挑む次世代が着実に育ちつつある。そんな作り手の思いの一端に触れてみた。

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ポップでモダンな作風

江戸時代後期に始まった箱根寄木細工。清水勇太さん(39)がその発祥の地とされる、旧東海道沿いの畑宿(神奈川県箱根町)に自身の工房「るちゑ」を構えてまもなく10年になる。

樹木の自然な風合いを生かした精緻な幾何学模様で知られる寄木細工だが、清水さんの作風は、伝統を受け継ぎつつも、ポップでモダンな印象だ。木目が編み込まれたかのようなデザインや球状の作品の数々ー。寄木が醸し出す「どこか賑やかで、思わず頬が緩んでしまうような愉しげなイメージを表現したい」(清水さん)との思いが込められている。

これまでの寄木細工のイメージにとらわれない清水さんの作品は、さまざまな関係者の目にとまり、活躍の場を広げている。

薄くスライスした寄木を絶妙な角度に折り曲げた「ちりとり」は同じ神奈川県内に伝わる「中津箒(ほうき)」に携わる同世代の作り手から、美しい日用品として愛用者を持つこの箒にマッチするちりとりがほしいとの製作依頼が誕生のきっかけだ。他にも楽器や起き上がり小法師といった球状の玩具や遊具もある。木目の風合いや手触りが優しいこれら作品の一部は、都内の保育園などで使われている。

未知の世界に飛び込む

実は清水さん、東京生まれ新潟育ちで、箱根とは縁もゆかりもなかった。大学時代に旅行で訪れた箱根で偶然、寄木細工に出会ったことがその後の人生を大きく変える。

繊細で高い技術に衝撃を受け、就職活動を始める同級生らを横目に弟子入りを志願したのは、正月恒例、箱根駅伝の往路優勝チームだけが手にすることができる寄木によるトロフィーの製作で知られる伝統工芸士・金指勝悦氏。無垢(むく)の寄木細工の第一人者としても知られる金指氏は、部材を寄り合わせた寄木の種板を、そのまま削り出す無垢の技法によって、独創的な模様を作り出すことができる。清水さんの作品には、そんな金指氏の下で修行に励んだ経験が通底している。

若手グループの存在支えに

ひとり産地に飛び込んだ清水さんにとって技能習得面、そして精神的な面でも支えとなったのは、異なる工房に所属する若手職人によるグループ「雑木囃子(ぞうきばやし)」を通じた活動だ。寄木組合のカンナの研修に珍しく同年代の若手が集まり、当時の組合長が、何か活動をしてみたらと提案したことがきっかけで始まったこの取り組みは、展示会などを通じた寄木細工の情報発信や技術の向上、販路の開拓を活動の柱としている。各工房は彼らが作品づくりに取り組めるよう、仕事時間外での設備や場所の使用を許可。「囃子(音楽やリズム)」のように協奏し、ともに切磋琢磨(せっさたくま)する機会を与えた。

「親方の下で働かせてもらっている期間に、自分自身が目指す作品づくりに向き合えたことは、いま、あらためて振り返っても贅沢な時間だったと思います」(清水さん)。そんな雑木囃子も結成からまもなく15年。メンバーは30代後半から40代にさしかかり、脂が乗った中堅世代として、さらなる産地活性化をリードする役割が期待される。

長らく産地を支えてきた重鎮たちが、若手ならではの活躍を後押しする懐の深さー。こうした土壌は自身の作品づくりに大いに影響していると清水さんは受け止めている。「先輩職人の手で、伝統もしっかり守られているという安心感の下、僕自身は、寄木細工の新たな魅力を発見できるような作品づくりに挑戦させてもらっている」からだ。

担い手不足で疲弊する産地が少なくないなか、新たな可能性を追求できる現状を、穏やかな語り口で「恵まれた環境」と謙虚に受け止める清水さん。その人となりは作品に投影されているようだ。

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