兵庫県西宮市のシンボル、甲山のそばに立つ自宅兼吹きガラスの工房には今年、ツバメの巣が九つもできた。
都市部に近くて緑豊かな環境が気に入り、拠点を構えて20年目。「いつもうまく作れる訳でなく、飽きが来ない」。吹きガラスの奥深さを語る頭上を、ツバメが行ったり来たりする。
1250度に達する溶解炉にステンレス製のさおを差し入れて、水あめのようになったガラスを先端に巻き付ける。息を吹き込んで膨らませ、冷やしながら転がしたり、焼きを入れてガラスを柔らかくしたり。「生き物をなだめるように」成形する。色を入れてさらに形を整え、食器や花瓶に仕上げていく。
大阪市出身。子どもの頃から鉄道などの模型を作り、分解するのが好きだった。大学卒業後、サラリーマンや喫茶店の経営を経て、40代でガラス工作の道へ。初めは、着色ガラスの小片を合わせた「ステンドグラス」に引かれ、腕を磨いた。
1989年に独立して工房を持ち、玄関扉のガラスやランプのかさなどを手掛けた。だが次第に、理想通りに作れずスランプに陥る。不況で商品の単価も下がり、行き詰まりを感じた。
そんな時、たまたま足を運んだ作品展で吹きガラスに魅せられた。立体的な曲線美にくぎ付けになり、「自由な創作ができるのでは」と転職を決意。5年間の修業を経て、2000年に西宮市湯元町で「甲山ガラス工房」を立ち上げた。
現在は長女、長男と、約20人の中高年の生徒を指導し、創作活動にも時間を割く。この時期、大分・湯布院や福岡・太宰府の土産物屋から風鈴の発注が相次ぎ、大阪の料理店からは一点物の皿の注文が入る。
先方の要求で作り直しを求められることもあるが、「『おたくに作ってほしい』と言われるとうれしい」と笑う。71歳。(初鹿野俊)
【メモ】
吹きガラスの教室は、月2回(受講料1万2千円)と月4回(同2万4千円)のコースがある。別途、入会費(1万円)と材料費(5千円)が必要。1日体験(受講料3500円)もある。甲山ガラス工房 TEL 0798-70-4431