実家のせんべい工場、危機救った兄弟 立ち飲み屋定番に

 せんべいに新たなうねりが起きている。需要の伸び悩みを背景に、若いせんべい職人らが奮闘。酒のつまみ向けに一風変わった味のせんべいを開発したり、フレンチの食材として使ったりしている。裾野は広がるか。

 JR両国駅(東京都墨田区)近くの立ち飲み屋「東京商店」。店内で売る日本酒やつまみなど約100点の中で、数量でも売り上げでも一番人気がせんべいだ。

 薄い一口サイズの「極みワサビ味」は目に涙がたまるほどの辛み。一回り大きい「甘辛七味味」は1センチほどの厚みがある。週替わりでバジルやビーフジャーキー、レモンソルトやにんにく味なども並ぶ。お土産として買う客のほか、つまみとして日本酒を飲みながら口にする客もおり、月に200袋以上が売れるという。開店当初の2016年から取り扱っている谷口純店長(26)は「こんなに売れるとは」と驚く。原料が酒と同じ米なので相性がよく、味付けの濃さも人気の理由とみる。

 店に並ぶ約10種類のせんべいを作っているのは「SENBEI BROTHERS」(江戸川区)だ。笠原健徳(かつのり)さん(43)と弟忠清(ただきよ)さん(40)が営む。

 兄弟の実家はもともと大手からの受注をもとに一般的なせんべいを作っていたが、受注減や原材料の高騰で経営が逼迫(ひっぱく)。兄弟が継ぎ、工場直売を始めて半年ほど経った15年、工場に来た客の「つまみにいいじゃん」という一言をヒントに、日本酒やビール、ワインやハイボールに合う商品を作り始めた。今や20種類を超す。

 広告デザイナーだった健徳さんが手がけた洋風のパッケージも好評で、ネット通販では最長2カ月待ちだ。健徳さんは「せんべいと言えば、こたつでおばあちゃんが食べるイメージ。手にとってもらいにくい。食わず嫌いな人にも魅力を伝えたい」と意気込む。

フレンチにも
 伝統の味を変えず、新たな楽しみ方を探す店もある。

 1804年創業の松崎煎餅(せんべい)(中央区)は3年前、世田谷区の松陰神社近くにカフェをオープン。コーヒー好きの8代目松崎宗平社長の発案で、創業当初からの看板商品「瓦せんべい」を飲み物とセットで販売した。瓦せんべいは小麦粉、砂糖、卵などを使い、甘さが特徴。苦みと酸味があるケニア産コーヒーとの組み合わせが人気だ。初めて店を訪れた庭師の中村法久さん(55)は「クッキーっぽいから、コーヒーにも思った以上に合う」と話す。

 せんべいをフランス料理に使う店も。江戸時代から続くとされる草加せんべいの地元、埼玉県草加市。「草加パリ食堂 エルブ」のオーナーシェフ細田悟さん(39)が、2年越しで考えた一品が「フォアグラのムースと草加せんべい」だ。フォアグラに生クリームやブランデーを加えて作ったムースをせんべいにつけて食べる。10軒以上の草加せんべい屋を回り、食感やムースとの相性を確かめて完成させた。

 運ばれてきた木のプレートには、白いムースが入った器と、一口サイズのしょうゆとザラメのせんべいが3枚ずつ並ぶ。食べてみると、ザラメの甘さとムースのコクが口の中で絶妙に絡み合う。「フォアグラは甘いものとよく合う」と細田さん。固定観念を覆す味で、軽いパリッとしたせんべいと軟らかいムースの食感の組み合わせも楽しい。面白がって注文した客の多くが「意外と合う」と驚くという。

 細田さんはせんべいを砕いて混ぜたアイスも考案した。「もっとメニューを増やし、いっそ『せんべいフレンチ店』ができたら」と笑う。

失われる地域の味
 イメージを変える取り組みは、若い世代が中心だ。

 せんべい業者らで作る「全国米菓工業組合」(東京都)によると、国内の米菓の生産量は年間22万トンほどで、ここ10年は横ばい。大手の寡占化が進む。最大手・亀田製菓(新潟市)によると、せんべい「ハッピーターン」は年間2500万袋以上売れており、ここ10年で同社の売り上げは伸びているという。

 一方で、組合の会員社数はピーク時(1963年)の2012社から、340社に激減。地域の味が失われつつある。「日本おかきせんべいソムリエ協会」の田沢秀樹理事長(44)によると、いまは経営者の代替わりが集中する時期といい、「様々な嗜好(しこう)品が登場する中、危機感を持った若い経営者らが、せんべいをあまり食べない層にアプローチしている」と分析する。

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