前橋市総社町周辺で明治時代から生産される、ろくろを使った「総社玩具」。こまやけん玉など木のぬくもりを感じることができる地元の伝統工芸だが、現在専業で作っている職人は、同町植野の渡辺貞雄さん(84)ただ一人になった。渡辺さんは「令和になり、時代は変わっても、総社玩具の灯は消したくない」との思いを込め、ろくろを回している。
最盛期には80軒の玩具職人 木のぬくもり 伝える
総社玩具は明治期に東京でろくろの技術を学んだ関口専司翁が、この地に玩具工場を設けたことに端を発する。工場で働き、技術を受け継いだ職人たちがその後独立。最盛期には80軒ほどの生産者がいたという。
東京生まれで幼少期に総社町へと移り住んだ渡辺さんは、もともとものづくりが好きだったことから総社玩具の職人の道に進んだ。定時制高校で学びながらろくろの技術を習得し、21歳の時に独立した。
しかし、材質が木からプラスチックに変わったことで、注文は最盛期の10分の1程度に激減。多いときは4人でろくろを回していたが、いつしか一人となった。多くの職人がみやげ品として需要の多かったこけし作りに軸足を移しても、渡辺さんはあくまで玩具にこだわった。
「時代の流れには勝てなかったが、決して総社玩具を作るのをやめようとは思わなかった」と振り返る。玩具を手にした子どもたちのうれしそうな表情を見るたびに、「まだまだ頑張れる」と気持ちを入れ替えてきたという。
会社員の道を選んだ2人の息子はともに家業を継ぐことはなく、このまま行けば総社玩具は途絶えることになる。「幸い体がまだ動くのでしばらくは仕事を続けられるが、誰か後を継いでくれる若い人がいたらいいんだけどね」と話す渡辺さん。この道一筋63年の匠(たくみ)は、後継にバトンを渡す日まで工場に立ち続ける覚悟だ。